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豚骨ショウガさんとの合作SSの2話目です。
今回は私、湖都が担当させて頂きました。















六軒島の花嫁 

第二話 「六軒島当主」





 車内の窓から夏妃は六軒島の空を見上げていた。天気は快晴。しかし、青く澄み渡った空とは対照的に、夏妃の心は暗澹たるものだった。顔も知らない男の元に嫁がされ、この先自分がどうなるかすら分からない。両親の愛を一身に受け、生まれ育った実家で幸せに暮らしていた彼女にとって、見知らぬ土地に一人で放り出されるのは不安で堪らなかった。夏妃は青く澄み渡る空を眺めながらため息をついた。


 やがて、リムジンはいくらも走らないうちにスピードを緩め停車する。源次は運転席から降り、後部座席のドアを開けた。
「どうぞ」
 源次がドアを開けるのを確認してから蔵臼はリムジンを降りた。
「夏妃さまも」
 源次に促され、車を降りた夏妃はやや視線を上にあげる。彼女の目の前にあるのは、丘の上へと続く長い階段。この上に右代宮家の屋敷が建っている。
「ここからは歩きだ。着いてきたまえ」
 初対面同然であるにも関わらず、高圧的な蔵臼の態度に夏妃は眉をひそめる。
(やはりこの人は好きになれそうにない……)
 夏妃は改めて、自分がこの蔵臼という男を拒絶しているのを感じた。



 長い階段が続いていく。慣れないドレスとヒールのせいもあり、この長い階段は夏妃にとってはつらいものだった。しかも、階段が終わった後は曲がりくねった道が屋敷へと続いていた。恐らく、距離感を出すために、無駄に迂回するような道を作ったに違いない。雰囲気を出すためだけに、わざわざそんなことをするこの家の人間の感性が彼女には理解できなかった。
「……はあ、はあ、はあ……」
 ただでさえ緊張の連続のうえ、慣れない道を歩いていたため息が切れてきた。
「大丈夫ですか、夏妃さま?」
 夏妃を心配し、源次が声を掛けてきた。源次はそっと夏妃に手を差し伸べる。
「さあ、御手を」
「はあ、はあ…。ありがとう源次さん、大丈夫です」
 こちらの様子に気を遣ってくれる、源次の態度は好感の持てるものだった。夏妃は少しだけ気が緩まるのを感じた。
「どうした? 早くしたまえ」
 それに比べ、蔵臼の態度はひどいものだった。こちらの様子などお構いなく、自分のペースで歩いていく。それどころか、こちらが遅いと『早くしろ』と急かしてくる。仮にも自分の妻となる人間に対し、労わりの言葉すらないとは……。夏妃は蔵臼という男に対し、ますます不信感を募らせていった。
 やがて、長く曲がりくねった道は終わりを告げ、右代宮家の庭が見えてきた。そこで夏妃は息を飲んだ。
 屋敷の前にある薔薇庭園。そこには、今まで夏妃が見たこともないほどの、多くの薔薇が咲き誇っていた。
 赤、白、黄と様々な色に彩られた薔薇庭園は、とても個人の庭園とは思えない。そのあまりの美しさに、夏妃は思わず笑みがこぼれた。それは、六軒島に来てから一度も笑顔を見せなかった彼女の、初めての笑顔だった。
「ここの薔薇は誰が手入れをしているんですか?」
「薔薇庭園の管理は、私たち使用人がしております」
「源次さんも世話をしているんですか?」
「はい。私はここ、正面付近の薔薇の手入れをしております」
「そうなんですか、すごいです。こんなに薔薇が綺麗なのも、源次さんが世話をしているからなんですね!」
「いえ、これくらいは使用人として当然です。お褒め頂く程ではございません」
 源次はそう言って謙遜するが、夏妃は素直に薔薇庭園の美しさに感動していた。この島に来てから、ずっと陰鬱な気持ちになっていた彼女にとって、この薔薇たちはそんな気持ちを忘れさせてくれた。こんなに綺麗な薔薇を育てる人たちなら、悪い人ではないだろう。使用人の人たちとは、仲良くできそうな気がする。夏妃はそんな風に思った。
 少しの間、薔薇庭園の美しさに心を奪われていた夏妃だったがふと気付く。庭園の先、そこには今まで見たことのないような、大きな屋敷が建っていた。
 美しい装飾が施され、一目で西洋の建物だと分かるその外観に、夏妃は息を飲んだ。見る者全てを魅了する、その屋敷の存在感に彼女は圧倒された。
 しばらくの間、その場で言葉を失っていた夏妃だったがやがて小さく呟いた。

「……今日からここが、私の家……」






ギギィッ、と重厚な扉が開かれる。源次が扉を開け、その後に蔵臼・夏妃が続く。中に入り夏妃は改めてこの屋敷の大きさを実感する。
 扉の先は大きく開かれ、吹き抜けとなっているホールは2階から見下ろせるようになっていた。見上げなければならないほど高い天井には豪華なシャンデリアが飾られている。
 ホールに置かれている台座には、写真でしか見たことのないような大理石の彫刻が飾られており、他にも絵画や陶器など庶民には手の届かない、高価な美術品があちらこちらに飾れていた。この屋敷に一歩足を踏み入れただけで、この家がどれだけの力を持っているかが窺われる。それと同時に、これらの美術品はこの家の当主がどういう人物かを如実に物語っていた。
 これ見よがしにホールに飾られている美術品の数々は、自己顕示欲の顕れ。自らの権威を顕さんが為に、わざわざ人目に付く所に飾られている。ある程度予想が付いていたとはいえ、これらの品を目の当たりにし夏妃は不安を募らせた。
「驚いたかな? これらの品は、全て我が右代宮家が国内外から取り寄せたものだ」
 実際は蔵臼ではなく、金蔵がその莫大な財と権力を持ち寄って集めたものなのだが、蔵臼はまるで自分の力でこれらの品を集めたかのように、飾られている美術品の数々を誇らしげに語る。
「どうだね、すごいだろう。これだけの美術品があるのは国内でも此処ぐらいなものだ」
「………そうですね」
 飾られた美術品を熱く語る蔵臼に対し、夏妃の反応は冷めたものだった。
(どうせ語るなら、さっきの薔薇庭園の方がよっぽど綺麗だったのに……)
 自分の力ではなく、親が集めたコレクションを自慢する蔵臼の態度に夏妃は辟易していた。もっとも、これらの品を集めたのが蔵臼であったとしても、夏妃の態度は変わらなかっただろうが……。
「……まあ、君に美術の勉強は難しかったかな? 追々学んでいくといい。これからは美術に関する教養も必要になってくるだろう」
 僅かにプライドを傷つけられた蔵臼だったが、そんなことで目くじらを立てるほど蔵臼も子どもではなかった。夏妃の冷めた感想を受け流し、蔵臼は本題に入る。
「さて、それでは私は他の兄弟たちに君の到着を報せて来る。兄弟たちへの紹介は後ほどとして、君は先に父に挨拶しに行くといい。どうせあの人は皆揃った場での自己紹介などするまい。源次」
「はい、お任せ下さい、蔵臼さま」
 それだけ言うと、蔵臼は屋敷の奥に歩いて行った。ようやく蔵臼が目の前からいなくなり、夏妃は胸を撫で下ろす。
「さあ、夏妃さま、こちらです」
「……は、はい」
 しかし、気を緩める間もなく夏妃は当主の間へ案内される。



 階段を昇り、2階へと上がった夏妃は屋敷の奥へと通される。いくつも部屋を通り過ぎた先に当主の間はあった。金の文字で複雑な意匠が施され、重厚感あるその扉からは只ならぬ気配が感じられる。
「誰か?」
 その時、扉の向こうから声が聞こえてきた。低い声だった。そこには静かながらも、相手に有無を言わせぬ迫力が込められている。中いる人物の迫力が伝わってくるようで、扉の前に立った夏妃を思わず唾を飲み込んだ。
「お館さま、源次でございます。夏妃さまをお連れしました」
「入れ」
「はい。夏妃さま、どうぞ」
 一瞬、部屋に入るのを躊躇った夏妃だったが、源次に促され扉に手をかける。
「し、失礼します」
 そして、重厚な扉を開き夏妃は中に足を踏み入れる。
 中に入った瞬間、甘ったるい匂いが鼻をついた。今まで嗅いだことのない奇妙な匂い。その匂いだけで夏妃は顔を曇らせる。
 部屋の中には様々な書物が置かれていた。ざっと目を通すと、ビジネス関係の本が目にとまる。床に散乱している書類も、仕事で使ったものだろうか? さまざまな文字や数字が書かれていた。それだけではなく、よく見ると帝王学と思われる本も置かれている。自分の子どもたちへの教育で使っているのかもしれない。蔵臼のあの傲慢な態度は、このような書物の影響もあるのかもしれない。
さらには、それらに交じって怪しげな書物まで置いてある。一見するとその本は真っ黒で、表紙には何処か分からない複雑な文字が書かれている。何と書いてあるのかは分からないが、見るからに怪しそうなその本は黒魔術か何かを連想させた。一体この部屋で何をしているのか、夏妃は不気味に感じた。
そして、部屋の奥に目をやると窓の前、一人の男が立っている。こちらには背を向け、その顔は見えない。しかし、こちらを見ずともその男は尋常ではない気配を発しており、夏妃は声を掛けるのに躊躇した。その時、彼女が声を掛ける前に男が後ろを振り返った。
 彫の深い顔。相手を威嚇するようなつり上がった目。やや皺が刻まれ、所々に白い髪が混じるその男は、年齢を感じられない迫力があった。
「お前が夏妃か?」
 金蔵が夏妃に声を掛ける。そう、金蔵は夏妃を知らない。会ったことも、見たことすらない。
 金があるとはいえ、一度潰れた右代宮家は所詮成金。まして、分家の出身である金蔵の血筋などたかが知れている。だから彼は、神職であり由緒正しき血筋である夏妃の実家を力で捩じ伏せ、その姫君を我がものとした。高貴な血筋が欲しいと言う理由だけで、金蔵は全く知りもしない人間を蔵臼の妻に選んだのだ。
「…………は、はい……。私が、夏妃です……」
 夏妃はようやくの思いで返事をした。自分がこの家に連れて来られる事となった元凶。その男が目の前にいる。
 しかし、右代宮金蔵を前にした夏妃の心にあったのは、憎しみではなく恐怖だった。沈黙していても、相手に有無を言わせない金蔵の迫力を前にして、夏妃は心臓を鷲掴みにされる思いだった。
「お前は何しに此処に来た?」
「……え? そ、それは……」
 何をしに来たも何も、夏妃は半強制的に此処に連れてこられたのだ。来たくて来たわけではない。この屋敷に連れて来た張本人が、何しに来たとは一体どういう了見か?
 しかし、夏妃にそんなことが言えるはずもない。
「わ、私は……、この家に嫁いで―――――」
「違う」
「……え?」
 夏妃は困惑する。夏妃は金蔵の手によって、強引にこの家に連れて来られた。それは、無理やりではあったが、蔵臼と結婚した上でのことだ。
 これを嫁いできたと言わずに、何と言うのか? 夏妃には分からなかった。しかし、次に金蔵が言った言葉は夏妃の心をさらに抉るものだった。



「お前はただ、子を産めば良い。それ以外に価値はない」



「――――――――――」
 金蔵の言葉に夏妃は絶句する。
「お前には何も期待はしていない。蔵臼と子をもうけ、後継ぎを育てれば良い。後は右代宮の名に泥を塗らないよう、最低限の教養を身につけ目立たないようにすることだ」
「…………………………」
 金蔵は夏妃を人として見ていなかった。ただ、後継ぎ産むための駒程度にしか見ていない。
 望まぬ結婚だったとはいえ、立派に育ててくれた父・母の名を傷つけないよう嫁ぎ先では精一杯頑張り、家の人間に認めてもらうつもりだった。だが、金蔵のその言葉は夏妃の持っていた僅かな希望すら粉々に打ち砕いた。
「一日でも早く蔵臼と子をもうけることだ。お前の存在意義はそれだけだ」
 夏妃の目の前の景色がグニャリと歪む。彼女はその場で目眩を起こしそうになった。



 ―――――これが夢なら早く覚めて―――――



「話は終わりだ、行け」
 それだけ言うと、金蔵は再び夏妃に背を向ける。金蔵の言葉を聞き、夏妃はのろのろと動く。その足取りは重く、まるで鉛にでもなったかのようだった。
 ようやくの思いで部屋の入り口まで歩き、その扉に手を添えた。夏妃の顔は青白く、まるで生気を失っているようだった。
 そして、彼女は小さく呟く。





「…………私、この家で生きていけるの……?」





<続く>












というわけで2話目はここまで。
ショウガさん、3話目よろしくお願いします!



2009.11.19 Thu l うみねこ l コメント (0) トラックバック (0) l top

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