久しぶりに小説を投下です!
今回も番外編だよ



そらのむこう番外編 その2 

「喧嘩するほど何とやら」

「38.4℃」
 縁寿は体温計に表示されている数字を読んだ。
「風邪ね」
 そう告げる。縁寿のその言葉を詩音はベッドで横になりながら聞いていた。その顔は少し赤く、額には濡れたタオルを乗せている。
「…………う~、情けないです。風邪を引くなんて……」
「いくら初夏だからって、あんな薄着じゃ風邪を引くに決まっているでしょ」
 縁寿の言うとおり、詩音が風邪を引くのは当然のことだった。
 それは昨日のこと。せっかくの休日なので、二人はいつも着ている制服ではなく私服で街へ出かけることにした。
 しかし、昨日は7月には珍しく春先程度の涼しい気温だった。それにもかかわらず、詩音が着ていた服は白のキャミソールに紺のミニスカートという、完全に真夏の格好だった。
『そんな格好じゃ風邪引くわよ』
 という縁寿の忠告にもかかわらず…………。
『何言ってんですか。誰も着ていないからこそ、夏を先取りしないと!』
 得意の持論を展開し聞く耳持たなかった。そして今日……。
「う~、ゴホゴホ!」
 案の定こうである。
「だからあれほど言ったのに……」
「……面目ないです」
「馬鹿は風邪を引かないと言うけど、そうでもないのね」
「馬鹿ですいませんね。どうせ縁寿のような頭は持っていませんよ」
 風邪で調子が悪かろうとも、軽口を叩き合う余裕はあるようだ。これなら心配はいらないだろう。
「それじゃあ、私はもう行くから。詩音のクラスの先生には私から言っておくわ」
「すいませ~ん、お願いします」
「冷蔵庫にうどんがあるから、お昼はそれを温めて食べて。それと薬箱に風邪薬があるから食後に飲むこと。大人しく寝てなきゃ駄目よ」
「は~い」
「じゃあね、行ってきます」
「いってらっしゃい」
 詩音が手を振るのを見てから、縁寿は部屋を出た。部屋の外に出た縁寿は数メートル歩いてから立ち止まる。
「マモン、いる?」
『は~い、何ですか縁寿さま?』
 そこに現れたのは煉獄の七姉妹が五女、強欲のマモンである。
「悪いけど、今日一日詩音を見てくれる?」
『え~~! 何で私なんですか?』
「いいじゃない、あなたいつも暇そうにしているでしょ?」
『そんなことないです。私こう見えて忙しいんですよ! 毎日毎日縁寿さまの寝起きを見て! 縁寿さまの着替えを確認して! 縁寿さまが何を食べたかチェックして! 縁寿さまのお風呂を覗いて! 縁寿さまの寝顔を撮らないといけないんですから!』
「…………それはもう二度としなくていいわ」
『えーーー!! 何で!?』
「何でじゃない!! とにかく、今日は詩音の様子を見ていること。大丈夫だとは思うけど、もし調子が悪くなったら私に知らせて」
『……は~い。ちぇっ、つまんないなあ』
「…………あなたが男だったら絶対警察に突き出すのに」





『は~あ、つまんないなあ。詩音の様子なんか見ても、面白くも何ともないのに……』
 マモンはぶつくさ言いながらも詩音の様子を見に来た。
 どうやら詩音は大人しく寝ているようだ。額にタオルを乗せたまま、ベッドで目を瞑っている。
『ふ~ん、どうやら大人しくしているみたいね。それにしても風邪か……。ぷっ、いい気味。いつもいつも縁寿さまを一人占めしている報いよ』
 詩音が来るまでは、縁寿はほとんどマモンが一人占めしていた。無論、他の姉妹と一緒にいる時もあったのだが、縁寿と一番多く過ごしていたのはマモンだった。
 七姉妹の中で一番の友達、それはマモンにとって小さな誇りだったのだ。ところが詩音が来てからというもの、縁寿を一人占めするようになったのは詩音の方だった。
 不可視の存在であるマモンにとって、その結果は当然のことだったのだが、強欲である彼女はそれが我慢ならない。
 なので、マモンは姿が見えないことを良いことに、しょっちゅう詩音にちょっかいを出していた。
『ふん、今日一日ベッドで寝込んでいることね。バ~カ、バ~カ』
 そう言い、マモンは詩音に向けて舌を出す。こうして彼女は日頃の不満をわずかながらも発散していた。しかし…………。
『ひッ!!』
 次の瞬間、マモンの顔面目がけ恐ろしい勢いで枕が飛んできた。だが、当然の如く枕はマモンの顔面をすり抜け後ろの壁に激突する。
『び、びっくりした……。何なのよ、いきなり!』
 マモンが驚き声を上げると、詩音はゆっくりとベッドから起き上がった。その目は半分ほどしか開いておらず、寝起き特有の不快そうな目でマモンの方を見つめていた。
「……気のせいか。妙な気配があったから虫でも飛んでいるのかと思ったけど……」
『む、虫ですって!! 言うに事欠いて煉獄の七杭が五女、強欲のマモンを虫ですって!? なんて失礼な奴なの!!』
 誇り高き煉獄の七杭を虫呼ばわりされ、マモンはカンカンだ。
「なんか最近この部屋変なんですよね……。人の気配が多いような……」
『誰が虫よ! 訂正しなさい!!』
「気のせいか。きっと虫か何か紛れ込んでいるんですね」
『人の話聞きなさいよ! って、ああ! 聞こえないんだった!』
「まあ、そんなことはどうでもいいですね」
 詩音は枕を拾いにベッドから降りる。
『どうでも良くないわよ! ムキーーー!!』
 どれだけマモンが大声を出そうと、その声は詩音には聞こえない。自分の意見を詩音に伝えることができず、マモンは悔しそうに地団太を踏んだ。
 ……しかし、その瞬間詩音の動きが止まった。
『…………ん?』
 詩音は凍りついたように動かない。マモンがどうしたのかと訝しがっていると、詩音はゆっくりと後ろを振り向いた。
「…………今、足音が……?」
 詩音の顔は引きつっていた。
 詩音は幽霊など信じていない。魔女だの魔法だの幽霊だの、そんな非科学的なものは存在しないと考えている。
 しかし、今現実に起きている不可解な現象に詩音は明らかに動揺していた。
「…………何なんですか、……今の……?」
『え? 何? ひょっとしてこいつ、私のことが分かるの?』
 マモンは不思議そうに詩音を見ていた。その時、詩音の目がマモンと合った。詩音の目は信じられないものでも見るように、大きく見開かれる。
「…………な、何? 今、そこに人がいたような……?」
『……え? ……嘘。まさか本当に私の姿が……?』
 信じられないのはマモンも同じだった。ただの人間に、マモンの姿が知覚できるはずがない。しかし、詩音は明らかにマモンの気配を感じているようだった。
「……今、そこに―――――」
『……………………』


































「頭に角を生やした巫女服姿の女の子がいたような……」










『誰よそれ!!!』





『どこをどう見たら巫女服になるのよ! この美しく且つ悪魔的な魅力溢れるこの衣装が目に入らないの!? って、見えないんだった!!』
「まさか、これがオヤシロさまの祟り……?」
『知らないわよ、そんなこと! 誰よ、オヤシロさまって!?』
「……くそっ! まさか子どもの頃にお供え物のシュークリームを勝手に食べたことをまだ恨んでいるの……?」
『何よそれ! そんなことを未だに恨んでいるって、どんだけ意地汚いのよ! 絶対に私じゃないわよ!!』

ゆるさないのです~

『ん? 今どこか遠くで恨めしそうな声が聞こえたような……? 気のせいかな?』
「ふん、オヤシロさまだか何だか知らないけど、祟りなんかで私をどうにかできると思っているんですか!?」
『だから違うって言ってんでしょ!! そんな田舎くさいマイナー神なんかと一緒にしないでよ!!』
「祟りなんて誰が信じるか!! 来いやあぁあああ!!! コラァアアア!!!!」
『わーーーーー!!! 馬鹿ッ!!!!』





「元気になったのはいいとして……」
「………………」
「どうして部屋がこんなに散らかっているの!!!」
 部屋に帰って来た縁寿は開いた口が塞がらなかった。
 朝出た時は奇麗に片付いていた部屋が、帰ってみれば枕やら、布団やら、小物やら、ありとあらゆる物が散乱していた。先日部屋を掃除したばかりの縁寿は、この有様を見た時に目眩を起こしそうだった。
 おまけに、大人しく寝ていろと言ったはずの詩音は何故か―――――

「バーカ!! 誰が信じるかよ!!」
 等と訳の分からないことを口走りながらマモンに物を投げつけていた。
『止まなさいよ! この馬鹿!!』
 マモンが詩音を嫌っていることは知っていたが、姿の見えないはずの彼女がどうしたらここまで詩音を怒らせるのか縁寿には理解できなかった。

「大人しく寝てなさいと言ったでしょ!! どうやったら部屋がこうなるの!!?」
「…………すいません」
(マモンも!!!)
『ひぅ!!』
(何でもっと仲良くできないの!! 詩音の様子を見ておくよう言ったでしょ!!!)
『ご、ごめんなさ~い!』
 縁寿に大目玉を食らった二人はすっかり大人しくなり、うな垂れていた。二人とも反省したようで、下を向いて俯いている。その様子を見てから、縁寿はため息をついた。
 互いに干渉できないから大丈夫だと思ったのに……。一体どうやったらここまで大喧嘩することができるのか?
「全く。せっかくお粥を作ってきたのに、こんなに元気なら必要ないわね」
「あ~~~! 食べます食べます! ありがたく頂きます!」
 そう言い、詩音は縁寿が持ってきた鍋に手を伸ばす。
「はあ……、しょうがいないわね。今度は散らかさないでよ?」

「あ~、おいしい! 生き返ります♪」
「本当に調子がいいんだから」
 そう言う縁寿だが、その顔はまんざらでもなさそうだった。自分の作ったものをおいしく食べてもらうのが嬉しいのだろう。
『いいなあ……。私も縁寿さまの作ったごはん食べてみたい……』
(ごめんねマモン、今は無理。その代わり、あなたたちを顕現できるようになった時は、一番最初にごはんを作ってあげる)
『本当ですか!? 絶対ですよ!』
 それを聞いたマモンは嬉しさのあまり飛び跳ねている。そんなマモンの様子を見て、縁寿はくすくすと笑っていた。
 その時、詩音が縁寿に声を掛けてきた。
「そうそう、縁寿にちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「何?」
「この部屋って……、出ます…………?」
「何が?」
 風邪が治ってからもしばらくの間、詩音はオヤシロさまだの、祟りだのと騒ぐのだった。



 おしまい











はい、ということで今回も番外編でした!
次回はちゃんと長いやつUPするよ。
10月3日から公式HPで人気投票始まるんで次回は早めにUPします。
年に2度のお祭りじゃあーーーー!!!



2009.09.29 Tue l うみねこ l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

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2009.10.01 Thu l . l 編集
今度は羽入の登場ですね。風邪でも感情の起伏が激しい詩音の動きがおもしろかったです。
2012.02.12 Sun l 乗組員Z. URL l 編集

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