注意 
この作品はEP4発売前に書いたものなので、若干不自然な表現がありますがご了承下さい





「………いいわ。乗るわ、その話」
「いいのね?多分、もう二度とここへは帰ってこれないわよ」
「ここは私のいるべき世界じゃないわ。……そして、私のいるべき世界は、私が自分で探す。あなたの名前を聞かせて」
「奇跡の魔女、ベルンカステル。そして我が名において、あなたを黄金の魔女、エンジェ・ベアトリーチェだと認めるわ。…今こそ、あなたは本当の魔女よ」
 彼女が私のことを魔女であると宣言した瞬間。
 …私の中で何かが大きくかわるような、そんな目眩を感じた。
 その時、バタンという音が聞こえた。
 …屋上へ通じる階段室の扉が開く音だ。

 絵羽伯母さんのところの護衛どもだった。
 …護衛とは名ばかり。もっとも身近な檻じゃないか。

 私がすでに柵を越えている姿を見つけ、仰天しながら駆けてくる。
「20、マル対発見。屋上、応援求む」
「縁寿さん…!探しましたよ!そこは危ないですから早くこちらへ!」
「……なぁに、あれ?」
「……ファンクラブよ。…私、結構モテるの」
「捕まる必要はないわね。………行きましょう」
 ベルンカステルは、さも面倒臭そうに言いながら踵を返す。…その漆黒の中空で。

 そんな当たり前の仕草だから、私もまた、さも当然に後を追う。
「縁寿さん!!!待ちなさい!早まるなッ、危ないぃいいいいい!!」
「あぁ駄目ね、全然駄目、じゃあまたね、シーユーアゲイン。迎えにはリムジンをよこして頂戴。みんなも一緒だから。じゃね」
「縁寿さぁあああああああぁぁあああん!!!」

























12年後のクリスマスプレゼント





 街は静かな眠りにつき、賑やかな喧噪も今は聞こえない。静寂に包まれた夜の街に、しんしんと雪が降り積もり、街はうっすらと白化粧していた。
 ちらちらと雪が舞う夜の街を、ひとつの影が夜空を駆けていた。
「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴る♪今日は楽しいクリスマス♪」
 鼻歌を歌いながらトナカイでソリを引くその男は、顔を白い髭で覆われ、背中には白くて大きな袋を担いでいる。
 そう、今日は12月24日。彼こそは、彼のサンタクロース卿。世界中の子どもたちにプレゼントを配るため、サンタクロース卿は今年も聖なる夜を駆けていたのだ。
「みんな今年も良い子にしていたかな?年に一度の一大イベント、今年も頑張るかの。さあ、栄えあるプレゼント一人目は……」
 サンタクロースは持っていた住所録をめくると、その先頭にあった名前を見て驚いた。
「何と!!一番目はあの右代宮真里亞ちゃんか!!ベアトリーチェ卿に才能を認められ、将来は無限の魔女を継ぐと言われている、天才少女じゃないか!!正に一番に相応しい!プレゼントしがいがあるわい。善は急げじゃ、それ!」
 そしてサンタは真里亞の家を目指し、ソリを走らせた。



 やがてソリは、真里亞の家の前までやって来た。
 サンタクロースが近付くと不思議なことに、窓が勝手に開いた。まるで彼を迎えているようだ。
 そしてサンタは窓に迎えられるまま、真里亞の部屋へと入る。
 サンタはベッドに近づき、真里亞の顔を覗き込んだ。
「むにゃむにゃ、ママ……」
 真里亞は小さな寝息をたて、静かに眠っている。
「うむうむ、良く眠っているようだの。さあそれではプレゼントを…」
 サンタはプレゼントを取り出すため、背中の袋を下ろし手を入れた。その時―――――。





 ブゥウウウーーーーーーン





 突如、サンタの頭上の空間が歪んだ。
「な、何じゃ!?」
 やがて空間の歪みは大きくなっていく。小さなボール程度だったその歪みは徐々に大きくなり、やがて人が入れる程度の大きさへとなった。
 球状の歪みは、青く光る稲妻を周囲に走らせ、その光が部屋を照らす。
「な、なな!一体!」





 バチバチバチ!!!





 そして歪みは一層強い光を放ち、部屋全体が激しい光に包まれた。





 やがて、静寂が部屋を包みこむ。空間の歪みはどこにも見られず、代わりに一つの人影が部屋にあった。
 人影は片膝と片手を付き、俯いている。下を向いているため、その顔は確認できない。そして体からは、小さな稲妻の残滓が奔っていた。
 やがて、人影はゆっくりと体を起こす。背中を伸ばし、顔を上げる。その顔は――――。





「……ここが過去」





 右代宮縁寿。
 失った家族と幸福な人生を取り戻すため、ベルンカステルによって12年後の未来からやってきた、最後の魔女。
 無限の力を持ち、ベルンカステルを永遠に閉じ込める黄金の魔女ベアトリーチェに対抗するための、最後の切り札。それが彼女、右代宮縁寿だ。
「ここが1986年、10月4日の六軒島…」
 縁寿は周囲を見回した。そして一通り周りを眺めてからこう呟く。
「案外狭いのね」
「って、ゴルァアアアーーーー!!!いつまで人の上に乗ってんじゃぁああああーーーー!!!」
 縁寿の下敷きになっている、サンタクロース卿が抗議する。ちょうど真下にいたサンタクロースは、突如現れた縁寿に踏みつぶされていたのだ。
「……アンタ誰?」
「それはこっちの台詞だわい!いきなり現われて、天下のサンタクロース卿を足蹴にするとは、何と言う不届き者!さっさと降りんかい、このクソアマ、ぶ!!」
「うるさい」
 縁寿は不愉快そうに、サンタクロースの頭を踏みつける。
「ちょ、コラ、止め―――――」
 そんなサンタの抗議にも全く耳を貸さず、縁寿は頭を踏み続ける。
 ひとしきり頭を踏みつけサンタが静かになると、縁寿はおもむろに窓の外を眺めた。
 窓の外に広がるのは、ごくごくありふれた住宅街の街並み。どう見ても、島の景色には見えない。
「………………?」
 自分の置かれている状況を掴みきれない縁寿は困惑する。その時、部屋のカレンダーが目に止まった。
 カレンダーは1986年のもの、だがそこに書かれている月は12月と書かれている。そして、机の上に置いてあるデジタル時計はPM11:30、日付は12/24を指していた。
「……どういうこと?」
 私は1986年10月4日の六軒島に行くのではなかったの?縁寿の頭に疑問が浮かぶ。
「どうやら移動先を間違えたみたいね」
 その時、女の声が聞こえた。縁寿が声のした方を見ると、うっすらと人影が見え、やがてそれははっきりと姿を現した。
 彼女こそ、奇跡の魔女ベルンカステル。縁寿を魔女にし、1986年の六軒島へいざなった張本人だ。
「ベルン、間違えたってどういうこと?」
「言葉通りの意味よ。ここはあなたが元いた世界とは違う所。よく似てはいるけど、何かが少し違っているわ。現にこの世界では12月24日の今日でも、右代宮の人間が生きている。どうやらこの世界では、六軒島での事件は起きていないようね」
「しっかりしなさいよ。私を1986年の六軒島に連れて行くって言ったのはアンタでしょう。出始めから、ミスしているじゃない」
「そう言わないで。数多あるカケラの中から、まったく同じものを探し出すのは簡単ではないのよ。たまには道に迷うこともあるわ」
「全く、奇跡の魔女が聞いて呆れるわ」
 縁寿はベルンのミスに落胆し、ため息をつく。
「オイィイイイーーー!!いつまでワシを無視している!!」
 突如、サンタクロースが起き上がり、上に乗っていた縁寿を跳ねのける。
「さっきから人を無視して、ごちゃごちゃ喋りおって!今日の主役はワシだぞ!大サンタクロース卿を足蹴にするわ、無視するわ!お前ら何様の……、ん?」
「あら、久しぶり」
「あああぁぁああああーーーーーー!!お前はベルンカステル!!」
「さっきから何なの、このおっさん?アンタの知り合い」
「知りあいっていうほどじゃないわ。ただのおっさんよ」
「何だ、その言い草は!!プレゼントを届けてやった恩を仇で返しおって!!忘れたとは言わせんぞ!!プレゼントを渡そうとベッドに近づいた瞬間、裁縫ばさみでワシのチャームポイントの髭をごっそり切りおって!!あれから髭が生えそろうまで、何か月かかったと思っている!!」
「そんな事あったかしら?忘れたわ」
「おのれぇえええええーーーーーー!!言ってるそばから!!」
「どうせなら、プレゼントまるごと強奪すればよかったじゃない」
「そう思ったんだけどね。キムチもワインもなかったから諦めたわ」
「貴様らぁあ!!いたいけな子どもたちのプレゼントを強奪するだと!!許さん!そんなにプレゼントが欲しければワシを倒してから、ぐわ!」
「うるさい」
 ベルンカステルはどこから取り出したのか、持っていたキムチをサンタの顔面めがけ投げつけていた。真っ赤で刺激たっぷりの赤トウガラシがサンタの顔面を赤く染める。
「目がぁあああーーーー!!目がぁあああああーーーー!!」
 哀れ、サンタは顔面を押さえながら転げまわる。
「いちいちうるさいわね。何とかならないの、このおっさん?」
「ほっときましょう。そんなことより、正しいカケラに移るわよ」
 ベルンカステルは、さも面倒臭そうに呟く。その時。
「真里亞!どうしたの!?誰かそこにいるの!?」
 一階から楼座の声が聞こえてきた。
「ま、まずい!このままでは見つかってしまう!」
 キムチのダメージから回復したサンタが体を起こす。
「いいじゃない、見つかっても。別にやましいことを、しているわけじゃないでしょ?」
「バカ者!右代宮楼座は『楼座無双』と恐れられるほどの危険人物じゃぞ!かつて、人の身でありながら黄金のインゴッド一本で、ベアトリーチェ卿の山羊軍団を壊滅したほどじゃ!妙な誤解をされたら、殺されかねん!!」
「落ち着きなさい。あなたはサンタクロース卿よ。そこら辺のコソ泥じゃないんだから、誤解されないよう堂々と振る舞えばいいのよ」
「う、うむ。言われてみればそうか」
 ベルンカステルに諭され、サンタは落ち着きを取り戻す。
 やがて、階段を昇る足音が部屋の前で止まった。



 バタン!!



 勢いよく、部屋の扉が開かれる。
「あー、こんばんは、マダム。ワシは―――――」
 楼座はそんな言葉など全く聞かず、サンタクロースを凝視している。
 暗闇で顔はよく見えないが、顔面のほとんどが髭に覆われ、そして足元には何やら物がたくさんつまった大きな袋が置いてある。
 楼座はその姿を見て確信する。これはどう見ても――――。










「泥棒か貴様ぁああああああーーーーーーーー!!!」










「何でじゃぁあああああああーーーーーーー!!!」






 そんなサンタの叫びもむなしく、楼座は一気に詰め寄ると渾身の右ストレートをその顔面にお見舞いする。
「ひでぶぅううう!!」
 『楼座無双』の一撃を喰らったサンタは、あえなく床に崩れる。
「お前らも仲間かぁあああーーーーー!!!」
 サンタを撃沈した楼座は、今度はベルンと縁寿に矛先を変える。狙いは縁寿。一瞬で縁寿との間合いに入り込むと、みぞおち目がけ拳を繰り出す。しかし―――――。



「ああ駄目ね。全然駄目」



「え?」
 次の瞬間、楼座は宙を舞っていた。
 楼座が繰り出した渾身の一撃。それを縁寿は紙一重でかわすと、楼座の腕を取り、拳の勢い全く殺さず力の方向だけを変える。
 何が起きたの?
 宙を舞う楼座は何が起きたのか理解できない。否、そう考える間もなく楼座は激しく床に叩きつけられた。
「きゅう」
 縁寿のみぞおちに打ち込まれるはずだったエネルギーは、そのまま全て楼座自身に返り彼女の意識を奪った。これで一晩は目を覚まさないだろう。
「全く、こんなおっさんと一緒にしないで欲しいわ」
「すごいわね。そんな技どこで身につけたの?」
「覚えたくて覚えたわけじゃないわ。毎日命を狙われると、嫌でも覚えてしまうものよ」
「うう……。なんちゅう小娘だ。あの『楼座無双』をいとも簡単に倒すとは」
 サンタは苦しげに顔を上げ、しかし縁寿のその強さに驚嘆した。
「さあ、行くわよベルン。さっさと次のカケラに移動しましょう」
 縁寿は踵を返すと、ゆっくりと歩き出す。しかし、ふと妙な視線を感じた。
「………ん?」
 縁寿は後ろを振り返る。その視線の先には―――――。





「うーーーーー」





 無垢な瞳を輝かせながら、真っ直ぐ縁寿を見つめる真里亞がいた。
 今まで騒いでいたため、全く気がつかなかった。だが当然である。階下にいた楼座ですら気がついたほどだ。あれだけ騒いで真里亞が起きないはずがない。
「「「………………」」」
 不意の出来事に、3人はどう反応すれば分からなかった。
 しかし真里亞は3人の様子などおかまいなし。ベルン、縁寿、サンタの順にその姿をじっくり観察する。そして、3人を眺めると開口一番、こう叫んだ。










「サンタだぁああああああーーーーーーー!!!!☆」











「……何でこうなるわけ?」
 縁寿はウンザリした表情でぼやいた。
「不本意だけど仕方ないわね」
 ベルンも乗り気ではないが、しぶしぶ納得したようだった。
「うーー!真里亞がプレゼント配る!!」
 真里亞は二人とは対照的にやる気一杯だ。
「うむ、元気があってよろしい。真里亞ちゃんは良い子だのう」
「全く、何で私たちがこんな事しなくちゃいけないのよ。プレゼントをあげるのはサンタの仕事でしょう」
「やかましい!自分で行けるなら自分で行っとるわい!誰のせいでこうなったと思っとるんだ!!」
 今日、ここに来てからサンタは縁寿・ベルン・楼座の3人にフルボッコされたせいで、持病の腰痛が悪化、プレゼントを配ることすらできなくなったのだ。しかし、運良くこの場には3人もの魔女がいる。
 そういうわけで、今年のプレゼントはサンタクロース卿ではなく、急遽この3人が配ることになったのだ。
「本来このソリはサンタ以外には扱えん。だが3人も魔女がいればコントロールは可能じゃ。魔力さえあれば、あとはトナカイが適当に引っ張ってくれる。まあ、何とかなるだろう」
「いい加減なサンタもいたものね。まあ、いいわ。私たちにも責任の一端はあるもの。仕事はキッチリこなすわ」
「うーーー!!真里亞頑張る!!」
「それじゃあ3人とも、プレゼントを配るのは頼んだぞ」
「うーー、行ってきます!」
 真里亞は待ちきれずソリに乗り込もうとする。しかし、そこに待ったが掛った。
「ちょっといい?」
 縁寿が口を開く。
「何じゃい、今さら嫌とは言わせんぞ」
「百歩譲って、プレゼントを配るのはいいわ」
「ならいいだろう」
「この格好は何?」
 改めて3人の格好を見てみる。
 真っ赤な帽子に、真っ赤な長靴、そして真っ赤なサンタ服。サンタ服はズボンではないが、女の子らしいスカートタイプになっている。
「真里亞はサンタさん♪」
「うむうむ、良く似合っているぞ」
 サンタは真里亞の頭を撫でる。本物のサンタに似合っていると褒められ、真里亞は上機嫌だ。
「仕事なら仕方ないわね」
 そう言いつつも、ベルンは嫌な顔はしていない。案外、気に入っているのかもしれない。
「まあ、2人の格好はともかく……」
 縁寿は不満げにこう叫んだ。









サンタ縁寿
「何で私だけこんな格好なのよ!!!」










 縁寿の格好は真っ赤な帽子に、真っ赤な長靴―――ではなく真っ赤なブーツ。そして一番違うのは服の方。スカートは超ミニで、太ももの上の方まで露わになっている。さらに胸から下、腰から上までが覆われていないという、非常に露出度の高いものだった。
「何なのよ、コレ!何で私一人だけ服が違うのよ!!」
「じゃかましい!!ワシをこんな目に合わせて、プレゼントだけ配って済ませるつもりか!!せめてもの罪滅ぼしにワシの目の保養に、ゴ!!!」
 最後まで言い終わる前に、縁寿はサンタの股間を蹴り上げた。
「ご……、が……、ぐごごごご!!!!」
 あまりの苦痛に、もはやサンタは言葉すらでてこない。
「子どもに夢を与えるサンタがこんなの奴だなんて幻滅ね。最低」
「ごががが……、こ…のクソアマ…!」
「アンタみたいな奴はそうやって地を這ってる方がお似合いよ。プレゼントはちゃんと配ってやるから感謝しなさい」
 そう言い、縁寿は虫でも見るかのように、サンタを見下す。
「うーー、喧嘩してるの?」
「あまり見ちゃ駄目よ。この二人は悪い大人の見本だから。あなたはこんな大人になっちゃ駄目よ」
 小さな子どもに悪影響がないよう、ベルンは真里亞の目を覆う。
「手伝ってやるんだから、配った後はそれ相応の報酬はあるんでしょうね」
「誰がやるか!!サンタは良い子にしかプレゼントしな、ゴブ!!」
 縁寿は地を這うサンタの頭を再び踏みつける。もはやサンタは文句を言うこともできず、小刻みに痙攣するのみだった。
「さあ、多少すっきりしたし、さっさとプレゼントを配りに行きましょう」
 そう言って、縁寿はソリへと足を運ぶ。その時、真里亞が縁寿をじっと見つめているのに気がついた。
「…………何?」
「縁寿ちゃん」
 その言葉を聞いて、縁寿は目を丸くした。
「え!?」
「縁寿ちゃん!縁寿ちゃん!うー、うー!!」
 そんな…。ベルンはこの子の前では、私のことを名前では呼んでないはず。それなのに、私が縁寿だと気づいたの?
「子どもの直感はすごいわね。12年も経っているのに、あなたが縁寿だと分かるみたいよ」
 そりゃあ、私だって昔の面影くらいは残っている。でもまさか、12年後の私の姿を見て分かるなんて…。正直驚いた。
「うー、でも前会った時は真里亞よりも小さかった。何で大きくなったの?」
 当然の疑問にどう答えたらよいか、縁寿は当惑した。
「あー、それは…」
 正直に話しても良いが、話すのも面倒だ。なので、縁寿は適当にはぐらかした。
「………育ち盛りだから」
 その返答を聞いてベルンは呆れる。そんな話を聞いて一体誰が信じ――――。
「そっかぁあ!縁寿ちゃんは育ち盛りだから大きくなったんだ。真里亞も早く大きくなる!うー!」
 信じた。
「子どもは素直ね…」
「さあ、そんなことはどうでもいいから、早くプレゼントを配りに行くわよ」
 縁寿はさっさと話を切り上げ、ソリに乗り込む。ベルンもそれに続く。
「さあ、アンタも早くしなさい」
 縁寿は真里亞をソリに座らせた。
「うー……」
 しかし真里亞は口を尖らせ、不満そうな顔をする。
「………何?」
「真里亞お姉ちゃん」
「は?」
「真里亞お姉ちゃん!アンタじゃなくて真里亞お姉ちゃん!いつもは縁寿ちゃん、真里亞お姉ちゃんって呼んでる!」
 どうやら、縁寿の真里亞に対する呼び方が気にいらなかったようだ。真里亞はソリの上で抗議の声を上げる。
「何よ、それ。どうでもいいでしょ、そんなこと。第一、どう見ても私の方が年上じゃない」
「うー!!真里亞お姉ちゃん!!」
「うるさいわね。アンタなんかアンタで十分よ」
「うー……」
 真里亞はまだ不満そうな顔で縁寿を見ている。
「呼んであげたら?かわいそうじゃない」
「馬鹿馬鹿しい。何で私の方が気を使わなきゃいけないのよ」
 そう突っぱねると、縁寿はソリを走らせた。
「全く。変な意地張っちゃって。どっちが子どもなんだか」





 聖夜の空をソリが駆け抜ける。3人の魔女を乗せたソリは、子どもたちにプレゼントを配るため満点の星空の下を走っていた。
「うーー!高い高い!!街があんなに、ちっちゃく見える!」
「思ってたより快適ね、このソリ。このまま持って帰ろうかしら」
「アンタたち、さっきから何騒いでんのよ!私たちは遊びに来たんじゃないのよ。さっさとプレゼント配って帰るわよ。えーと、次の子のプレゼントは、……ファミコン。古っる、まあ12年前じゃ当たり前か」
「懐かしいわね。私も昔やってたっけ」
「へえ、魔女でもこういうのするの?」
「あの頃は魔女じゃなかったけどね。どっちにしろ、大昔のことよ」
「?まあ、いいわ。この子のプレゼントは、お人形か。女の子らしいプレゼントね」
「うー、真里亞も欲しい」
「これはアンタのじゃないわよ。サンタが自分にプレゼントしてどうすんのよ」



 何だかんだいって、3人は順調にプレゼントを配っていく。一番不満をもらしていた縁寿だが、仕事に関してはしっかりこなし、遊ぼうとする2人をリードしながらプレゼントを配っていた。
「次の子のプレゼントは…、え~と何々『にーにーと、ねーねーにお揃いのマフラーをあげてくださいまし』へえ、自分よりお兄さん、お姉さんにプレゼントして欲しいとはね。なかなか、関心な子じゃない」
「ええ、本当に兄想いの優しい子よ」
「?まるで知っているような口ぶりね。知り合い?」
「知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らないわ。今の私とは直接関係はないもの」
「さっきから妙なことばかり言ってるわね。一体何なの?」
「そんなことより、早くプレゼントを配らなくていいの?待ってる子どもは、まだまだいるわよ」
「……まあ、いいわ。次の子は…『シュークリームが山ほど食べたいのです。あうあう』食い意地の張った子ね。プレゼントに生ものを頼むなんて」
「真里亞もシュークリーム食べたい!うー!」
「だから自分にプレゼントしてどうするのよ!サンタとしての自覚を持ちなさい!」
「縁寿、その子の願いは気にしなくていいわ。代わりにキムチをたっぷりプレゼントしてあげて」
「何それ、新手の嫌がらせ?」
「いいえ、お仕置きよ」
「わけ分かんないわね。次の子は…『ワインと最高級キムチ』どんな子ども!!?この子が一番おかしいじゃない!!」
「いいから、言われた通りのプレゼントを用意して。あと、ワインはビンテージものをお願い」
「何でアンタがプレゼントにケチつけるのよ!!」
「子どもたちに満足のできるプレゼントをあげてこそ、真のサンタよ」
「さっきの子にはお仕置きをしようとしておきながら――――」
「さあ、はやくこの子たちにプレゼンを配りに行くわよ」
 ベルンは縁寿の言葉を途中で切り、ソリを走らせる。





 雲一つない星空の下、3人を乗せたソリが夜空を走る。しかし、3人の格好は先程と比べるとボロボロだった。
 綺麗に着飾っていたサンタの衣装はあちこち擦り切れ、ところどころ汚れている。縁寿とベルンの顔にも疲労の色が見られる。元気なのは真里亞だけ。
「うー!楽しかった!」
「楽しくないわよ!!何でプレゼントを配るだけで、こんな目に合わなくちゃいけないのよ!何処の世界にトラップで敷き詰められた家があるのよ!!」
「3年を経て、トラップにますます磨きがかかっていたわ。……流石ね」
 プレゼントを配るため、家の中に入った3人。しかしサンタクロースを待っていたのは暖かい出迎えではなく、某部隊を壊滅に追い込んだトラップの数々だった。
 そのトラップの恐ろしさたるや、魔女の魔法をもってしても防ぎ難いものだった。命からがら、プレゼントを置いて逃げた3人。一方的に追い込まれていた3人だったが最後の最後、ベルンカステルが頭に妙なアクセサリーをつけた女の子の顔面にキムチをぶつけることで、一矢報いた。
「もうやってらんないわ!!楽な仕事だと思ったから引き受けたのに!!あんなジジィの頼みなんて聞かなきゃ良かった!!」
「頑張りましょう、残りはたった2軒よ」
「もう、あんな目に合うのは二度と御免よ」
「大丈夫よ、世界中探したってあんな家はひとつしかないわ。次の家は―――――え?」
 書いてある家の住所を見て、ベルンは固まった。縁寿はその顔を覗くが、表情は険しい
「……何?」
 不安になり、縁寿は尋ねる。しばらくベルンはその住所を見ていたが、やがて顔を上げた。
「こんな事ってあるのかしら……」





 広い広い森の中、その屋敷は立っていた。正門を越えてから、屋敷にたどり着くまででも、かなりの距離を飛んできた。とんでもない広さの庭である。
 そして、その屋敷もとてつもない大きさだった。右代宮の屋敷など、比べることすらおこがましいほどの大きさだ。縦も横も、高さも常識外れのスケールである。城と言っても差しつかえない。庭も含めたら総面積はどれほどになるか見当もつかない。
 その屋敷の前に、3人を乗せたソリはあった。
「まさかここに来るとはね……」
「アンタの知り合いなの?この化けものみたいな屋敷の主は」
「ここは―――――」
「ラムダちゃんの家!!」
 ベルンが答える前に真里亞が答えた。
 そう、ここは『絶対の魔女』大ラムダデルタ卿の屋敷なのだ。魔女の世界でベルンカステルを除き、並ぶものがいないと言われる彼女の家は、やはり他に並ぶものがいないほど広大な屋敷に住んでいた。
「真里亞、あなたここに来たことあるの?」
「ベアトリーチェにいつも連れてきてもらっている」
「そう、こっちの世界では魔女と仲がいいのね」
 どうやらこっちの世界の真里亞は、魔女との交流が深いようだ。『絶対の魔女』ともなれば、例え魔女でもおいそれとは会えるはずがない。それほど、真里亞の才能が認められているということだ。
「ベルン、さっきみたいな事はもうないんでしょ?」
「多分ね、まあそれもあっちの出方次第でしょうけど」
「頼むわよ、さっきみたいなのは2度と御免だからね」
 やがてソリは、ある窓の前で止まった。この窓の中こそ、ラムダデルタの部屋だ。ソリが近付くと窓はひとりでに開き、3人は招かれるように部屋へと入った。
 部屋は一人の私室とは思えないほど広く、床には高級そうな絨毯が敷き詰められている。部屋のあちらこちらには豪華な調度品が置いてあり、それだけでこの家の主がどの程度の力を持っているのかが分かる。
 そして部屋の中央には、豪華な天蓋付きのベッドが置いてあった。
「あれがラムダのベッドね」
 ベルンはベッドに近づく。
「まさか私がこの子にプレゼントするとは思わなかったわ。ええと、この子のプレゼントは――――『スクラップ帳』?なんでこんな物欲しいのかしら」
 ベルンは不思議に思ったが、細かい事は気にしないことにした。
「まあ、いいわ。ここに置いておくわよ」
 ベルンはプレゼントをラムダの枕もとに置いた。しかし――――。
「え?」
 ベッドの中にいたのはラムダデルタではなく、等身大のぬいぐるみ。ラムダ本人は影も形もない。
「一体何処に―――――」



 その時、突如部屋が明るくなった。強力なライトがベルンを照らす。
「一体何なの!?」
 困惑するベルンカステル。しかし、次の瞬間頭上から落ちてきた何者かにより、ベルンを捕らえられた。
「をーーーーーーっほっほっほっほっほ!!!ついに捕まえたわよ、サンタクロース!!今日という日をどれだけ待ったことか!!」
 高らかに、笑い上げるのは『絶対の魔女』ラムダデルタ。彼女はサンタクロースを我が物にするため、罠を張り獲物がかかるまで姿を隠していたのだ。見事、獲物を捕獲した彼女はご満悦だ。
「さあ、サンタクロース。今日からあんたは私のしもべよ!これからは毎日私にプレゼント持って来なさい!!プレゼントの中身はもちろんベルン―――――って、あれ?」
 そこでラムダはようやく気がついた。馬乗りになっている相手がサンタクロースではなく、それが自分が欲してやまないベルンカステルだということに。
「………どきなさい」
 ベルンは露骨に不愉快そうな顔をする。しかしラムダは、そんなことおかまいなしだ。
「もうーーー☆そんなに私に会いたかったの!?サンタに扮してまで私に会いにくるなんて!ホントに素直じゃないんだから☆」
「好きで来たわけじゃないわ」
「またまたぁあ☆いいのよ、今日くらいは。何てったって、年に一度のクリスマス・イヴ!今日くらいは思いっきりデレてもいいんだから!」
「少しは人の話を聞きなさい!」
「うー!ラムダちゃん!!」
「あら、真里亞も来ていたの?でも残念、今日はベアトもいないし、私は忙しいから遊んであげる暇はないの。また今度ね」
「うー、また今度遊ぶ!」
 そう言い、ラムダは再びベルンの方を向く。その様子を縁寿はあきれ顔で見ていた。
「サンタのジジィといい、ろくな知り合いがいないわね。この女」
 そう言い残し、縁寿は踵を返した。
「こうなったら、私たちだけでプレゼントを配るわよ。どうせ、次で最後なんだから」
「うー。次で終わり」
 縁寿は真里亞を連れてソリへと戻った。そしてベルンを残したまま、再び空を駆けていく。



 ソリを走らせている途中、縁寿は思っていた疑問を真里亞に聞いてみた。
「ねえ、アンタベアトリーチェと仲がいいの?どんな奴?」
「ベアトリーチェはすっごい魔女。いつも真里亞と遊んでくれる」
「ふーん……。意外ね。こっちのベアトリーチェと、私の世界のベアトリーチェは随分違うみたい」
 ベルンから聞かされているベアトリーチェは、縁寿の家族を六軒島に閉じ込め、縁寿自身の不幸の元凶だと聞かされている。しかし、ここのベアトリーチェは悪い魔女ではなさそうだ。
「なら、なおさらこんな所に用はないわ。早くあの日の六軒島に行って、兄さんを助けないと」
 縁寿はソリを走らせる。
「次がラストね。最後の家は―――――」
 住所禄を見ていた縁寿の手が止まった。その手は小刻みに震え、目はそこに書いてある住所を食い入るように見ている。
「………うー?」
 何も話さなくなった縁寿をみて、不安になった真里亞は様子を窺う。
「――――――――――」
 やはり縁寿は何も話さない。ただただ、住所録から顔を離せないでいた。
 ソリは二人の魔女を乗せたまま、最後の目的地へと夜空を駆けて行った。











ソリはすでに目的地に到着していた。だが、縁寿は一向に家に入る様子はない。
「入らないの?」
 真里亞が縁寿を急かす。しかし縁寿は聞く耳もたない。先ほどからずっと、家の前で立っているのだ。
 そして縁寿は、家のある部分をじっと見ていた。そこに書かれているのは――――。





















『右代宮 留弗夫』










 表札にはそう書かれていた。
 ここが留弗夫一家の自宅。留弗夫、霧江、縁寿、そして戦人が住んでいる。
「………………」
 縁寿は家を眺めていた。
 懐かしき我が家。
 夢にまでみた、あの日の家族がここに住んでいる。
 しかし、ここは縁寿の家ではない。
 彼女の本当の家はもう存在しない。家族が死に、右代宮絵羽に引き取られたあの日から。
 分かっている。ここは自分にとって、仮初めの家。決して訪れていいような場所ではない。しかし―――――。

「ここに、兄さんが……」

 会いたくて、会いたくて、会いたくて仕方がなかった人がここにいる。

 悲しくて。

 苦しくて。

 辛くて。

 そこから抜け出したくて、『せめて兄さんがいるのなら』そう思い、ひたすら願った。

 それでも叶うはずのない願い。

 その願いが今、目の前にある。



 『兄さんに会いたい』



 その想いが縁寿を動かした。
 縁寿はソリに乗り込むと二階の窓へと上がる。
 二階の突き当りの部屋。そこが戦人の部屋だ。戦人がいつ帰って来てもいいように、いつも綺麗に掃除していた。結局使われたのは数えるほどしかなかったが、確かにそこが戦人の部屋なのだ。
「そこは縁寿ちゃんの部屋じゃないよ」
 真里亞が声をかける。
 分かっている。本来なら縁寿にだけプレゼントを渡し、早くここから立ち去るべきだ。違う世界の人間が干渉するべきではない。
 だけど、せめて一目だけ……。

 縁寿は窓から、静かに部屋に入った。部屋の中を見回す。細部に多少の違いはあるものの、そこは紛れもなく、懐かしき兄の部屋だった。
「――――――――――」
 懐かしさに言葉がでない。まるで昔に戻ったようだった。縁寿はひとしきり部屋を見回した後、視線を移した。
 部屋の片隅。大きめのベッドが置いてある。背の高い戦人にも合うようにと、両親と一緒に買いに行ったベッドだ。
 そして、そこで寝ている者は小さな寝息を立て、静かに眠っていた。





「――――――――――兄さん」





 今、縁寿の目の前にいるのは、夢にまで見た『右代宮戦人』その人だった。

「……兄さん」

 縁寿はゆっくりとベッドに近づく。

 私、頑張ったよ。

 悲しくて、苦しくて、辛くて、それでも頑張ったよ。

 兄さんに会えなくても頑張ったよ。

 だから褒めて。

 私を抱きしめて。

 もう一度、あの日みたいに、私の頭を優しく撫でて。

 ねえ、兄さ―――――。






























 縁寿の思考が止まった。
 その目はただ一点を見つめている。
 視線の先は戦人のベッド。
 だが目に映っているのは戦人ではなかった。
 縁寿の視線の先、そこにいたのは……。






























 気持ち良さそうに、眠っていた。
 時折むにゃむにゃと寝言を言い、寝返りをうって戦人の方へと転がる。
 小さな小さなその体は、戦人の胸の中にすっぽりと収まるほどで、その中で再び静かになった。










「―――――どうして」










 どうしてあんたがそこに。

 そこには私がいるはずだった。

 この家も。

 家族も。

 兄さんも。

 全部私のものだったはず!!!

 どうして、どうして、どうして!!!

 私は頑張った!!

 絵羽に虐められても!!

 家族がいなくても!!

 兄さんがいなくても!!!

 私を疎ましく思う連中に負けないよう努力した!!!

 勉強も!!

 スポーツも!!

 何だって私が一番だった!!

 私は誰よりも努力した!!

 なのに神様は残酷だ。

 私から奪うだけ奪って、何も与えてはくれなかった。

 だから捨ててやった。あんな世界。

 なのに、まだ私から奪うのか。

 ここでの私の幸せを。

 この餓鬼が何をしてきたというのだ。

 何もしていない。

 何の努力も。

 何の試練も受けていない。

 ただ日々の幸せを享受し、それが当たり前だと思っている。

 私が受けてきた不幸の一億分の一も味わっていない。

 何で私ばかりがこんな目に。

 何でコイツだけが、幸せを。










 許せない




















 許せない。許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!!!!!!!!!!!!!





 縁寿は静かに眠っている、小さな自分の首に手を伸ばす。











































そこはお前の居場所じゃない!!!私のものだ!!!!!!!
 





























 右手が細い首にかかる直前、その動きが止まった。
 縁寿は後ろを振り返る。見ると、真里亞が縁寿の左手を掴んでいた。
「何を―――――」




















「怒らないであげて、縁寿ちゃんは悪くない」










「――――――――――」










 縁寿は我に返った。
 そうだ。自分でも分かっていたじゃないか。
 ここは私のいる世界ではない。
 違う世界の私が、この世界の『縁寿』に八つ当たりするなんてお門違いだ。
 私がするべきことはこんな事じゃない。
 兄さんを助け出す。そして、この自分の運命を変える。
 この世界の私から、幸せを横取りすることじゃない。



「どうかしてるわね。自分に嫉妬するなんて」
 縁寿は自嘲気味にそう言った。
 そして真里亞の方を向き直し、こう言う。
「ありがとう」
「うーーー!!」
 真里亞はそれに、とびきりの笑顔で答えた。





 小さな縁寿は、小さな寝息を立てて静かに眠っている。
 縁寿はそれを見て、小さく笑った。



 私にも、こんな時があったわね。



 縁寿は袋から、小さなクマのぬいぐるみを取り出した。
 それは12年前、縁寿がサンタさんにお願いしたのと同じもの。
 ぬいぐるみを見つめ、縁寿は昔を思い出す。



 気の早い私は、10月にはもうお願いしてたっけ。クリスマスのプレゼント。



 縁寿はそれを、小さな自分の傍らに置く。



 結局私はもらえなかったけど―――――。



 そして、小さな自分の頭を優しく撫でる。



「私の分まで、大切にしてね」



 縁寿は立ち上がり、窓へと向かう。そして、窓から出ようとしその足を止めた。
 彼女は振り返り、ベッドで寝ている最愛の兄に向けてこう言った。



「私のこと、大切にしてあげて」



 そして縁寿は二度と振り返らず、その場を去った。










 聖夜の空を、一台のソリが駆け抜ける。プレゼントを配り終えた縁寿と真里亞は帰路へとついていた。
「さあ、早く帰りましょう。思ったより時間かかっちゃったわ」
「プレゼント」
「……何ですって?」
「真里亞まだプレゼントもらっていない」
 その言葉を聞き、縁寿は呆れる。
「アンタまだそんな事言ってるの?いい加減諦めなさい。サンタが自分にプレゼントなんて聞いたことないわ」
「うー、小さい縁寿ちゃんは、前にくれたのに」
「え?」
 そう言うと、真里亞はポケットから小さなキーホルダーを取り出した。
「……それ、どうしたの?」
 縁寿は真里亞に尋ねる。
「しんぞくかいぎの時に、縁寿ちゃんが真里亞にくれた」
 それは、ちいさな人形。真里亞と縁寿を象ったであろう、小さな人形がキーホルダーに括り付けられている。
「アンタ、まさかいつも持っているの?」
「うー、真里亞はいつも持っている。縁寿ちゃんからもらった大切なプレゼント」
 真里亞は大事そうに、それを持っている。こんな所にまで持ってくるということは、普段から肌身離さず持っているのだろう。
「……くだらない。失くしても知らないわよ」
 縁寿は興味なさそうに答える。さっさと帰るため、トナカイの手綱を振るった。その時―――――。
 突如、突風が吹き荒れた。
「きゃ!!」
 縁寿は思わずソリにしがみついた。しかし次の瞬間には、風は収まっていた。
 縁寿は胸を撫でおろす。しかし、横にいる真里亞を見て、ぎょっとする。
 真里亞は突風で飛ばされたキーホルダーを取ろうとして、ソリから身を乗り出している。右手を突き出し、キーホルダーを掴む。しかし、その体はすでにソリの上にはなかった。
 キーホルダーを握ったまま、真里亞は遥か地上へと落ちていく。



「バカ!!!」



 次の瞬間、縁寿の体はソリにはなかった。
 凍てつく夜空を切り裂いて、二人の魔女が落ちていく。










 支えを失った二人の体は、重力のなすがまま、加速し続ける。あれほど小さかった街並みが近付いてくる。このままでは、もう1分もしないうちに地上に落ちてしまう。
「くっ!!」
 縁寿は空気の触れる面積を極限まで少なくし、抵抗を少なくする。初めは離れていた真里亞との距離が徐々に縮んでいく。

 もう少し。あと10メートル、5メートル!!

 縁寿は懸命に真里亞に向かって手を伸ばす。やがて、その手が真里亞の腕にかかった。
 届いた!!

 縁寿は真里亞を自分の胸に一気に手繰り寄せる。だが―――――。

 縁寿は空を飛べない。

 魔女になったばかりの彼女は、魔法を使うどころか、空の飛び方さえ知らなかった。高層ビルから、空へと足を踏み出したときはベルンカステルが力を貸してくれた。しかし今、彼女はいない。
 だが縁寿は諦めてはいなかった。猛烈な勢いで近づいてくる地面を見据えながらこう叫んだ。



「冗談じゃないわ!!こんな所でくたばるくらいなら、初めから付いていったりしないわよ!!!」



 私だって、魔女なんだ!あの女にできて、私にできないことなんてあるものか!!
 目前まで迫った地面を睨みつけ、縁寿は叫ぶ。



「翔べ!!!」



 その瞬間、二人の体から重力が消え去る。代わりに襲いかかるのは、加速した体を止めるための急激な制動。



「――――――――――!!!!!!」



 二人の体に急激なGが加わる。それでも、落下は止まらない。地面は目前まで迫ってくる。そして――――。




















「………止まった」



 地面まであと1メートルというところで、二人の体は静止していた。縁寿は真里亞を抱えたまま地面に降りると、膝から崩れ落ちた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
 今になって恐怖が襲いかかってきた。空を歩く経験はあっても、落ちる経験がない彼女にとって、今日のスカイダイビングはトラウマになることだろう。
 縁寿は真里亞を見る。どうやら、落ちている途中で気絶したらしい。今は目を閉じて眠っている。
「全く。私が追いかけてこなかったら、どうするつもりだったの?」
 縁寿は真里亞の頬を軽くつついた。
「本当ね。一体何を考えているの、縁寿?」
 不意に、ベルンカステルの声が頭上から聞こえてきた。
「ベルン……」
 宙に浮かんでいたベルンは、縁寿と目を合わすと彼女の横に舞い降りる。
「何を考えているのかしら、空も飛べないくせに。私が間に合わなかったらどうするつもりだったの?」
 ベルンは縁寿を問い詰める。それも当然だろう。ベルンが間に合わなかったら、二人とも死んでいるところだった。だが、縁寿はあっけらかんと答える。
「でも、間に合ったじゃない」
 それを聞き、ベルンは何か言おうとしたが止めた。過ぎたことを言ってもしょうがない。ベルンは縁寿に向かって、一言こう言った。
「まずは空の飛び方から教えるわ。私の見つけた魔女が、空も飛べないんじゃ恥ずかしいわ」
 そう言って、ベルンはそっぽ向く。それを見て、縁寿は一言こう返す。
「助かったわ。ありがとう」
「本当にそう思うなら、一日でも早く空の飛び方を覚えてちょうだい」
 それを聞き、縁寿は苦笑する。
「うーん」
 その時、真里亞が声をあげる。もう目を覚ましたかと思ったが、真里亞は再び寝息を立てる。
「呑気なものね」
 ふと、縁寿は真里亞の右手に握られているものに気づいた。そこには先ほどのキーホルダーが握られている。気を失っても、これだけは離さなかったようだ。
「バカね。こんなもののために、ソリから落ちるなんて」
「うー」
 真里亞は縁寿の腕の中で身をよじる。
「……本当に、バカ」
 そう言って、縁寿は真里亞の頭を優しく撫でた。











「うー、むにゃむにゃ」
 ベッドの中で、真里亞は気持ち良さそうに眠っている。その様子を縁寿は優しく見守っていた。
「おー、お疲れさん。御苦労だったの」
 サンタが労いの言葉をかける。無事プレゼントを配り終えたことで、サンタは一人祝杯をあげていた。
「ベルンカステルも御苦労だったのう。どうじゃ、お前さんも一杯やるか?」
 サンタはもう一つグラスを掲げる。だがベルンは丁重にそれを断った。
「そうしたいのはやまやまだけど、止めとくわ。すぐに次のカケラに移動するから」
「何じゃ、忙しいやつだの」
「誰かさんに、足止めを喰らっちゃったから。当分、あの子とは会いたくないわね」
「そうか、なら無理に引き止めはせん」
「いつか暇があったら、酌み交わしましょう。縁寿、行くわよ」
 ベルンは縁寿に声をかける。しかし、縁寿は真里亞のそばから離れようとはしなかった。
 その様子を見て、ベルンは想うところがあったのだろう。縁寿に優しく声をかける。
「いいのよ。あなたがここにいるのを望むなら。ここにはあなたの家族も、お兄さんも、真里亞もいる」
「………………」
「自分が欲してやまない理想のカケラ。それがどれほど得難く、大切なものか私はよく知っている」
「………………」
「ここにはあなたが望んだもの全てがあるわ。過酷な戦いに身を投じることもない。だから、どうするかはあなたが決めてちょうだい」
 それは、とてもとても心地よい誘惑。ここにいるだけで全てが手に入る。どれだけ自分が望んでも、決して手に入れることができなかったもの。
 今までの自分の努力全てを差し出しても、お釣りが来るほどの理想の世界。
 でも―――――。



 先ほどの光景が頭をよぎる。
 最愛の兄。その隣で幸せそうに寝ている、幼い自分。
 この世界は彼女のものだ。
 私が手にして良いものではない。



 縁寿は立ち上がり、ベルンを見つめこう答えた。
「ここは私のいるべき世界じゃないわ」
 その顔には、二度とここには訪れないという意思が込められていた。
 けれど、その瞳はどこか寂しそうに見えた。
「…………そう」
 ベルンは小さく呟くと頷いた。
「行きましょう」
 縁寿は後に続く。一瞬、真里亞を振り向こうとしたがすぐにやめた。



 もう、自分にできることは何もない。



 縁寿は部屋を後にした。










「あー、ちょっと待った」
 急にサンタに呼び止められ、2人は足を止める。
「何、まだ何かあるの?」
「バカ者、まだ渡すものを渡しとらんだろう。ほら」
 サンタはベルンに向かって何かを手渡した。ベルンはそれを受け取る。
「ベルンカステルじゃない。へえ、意外に気がきくわね」
「ドイツのモーゼルから取り寄せた。ビンテージもんじゃぞい」
 思わぬ手土産に、ベルンはご満悦だ。あとでゆっくり飲む気なのだろう。
「それからお前さんにはこいつだ」
「え?」
 そう言って、今度は縁寿に何かを渡す。
「―――――これって」
 縁寿は驚いて、サンタを見つめる。








































「『プレゼントはクマさんのぬいぐるみがいいです』だったかのう」










 縁寿は言葉を失う。
 それは小さなクマのぬいぐるみ。
 今日、縁寿が幼い自分にプレゼントし、12年前サンタクロースにお願いしたものだった。
「あ、あ―――――」
「ワシはこう見えて顔が広い。あちこちのカケラを飛びまわっているからの。お前さんが、こちらの縁寿より小さい頃から知っとるぞ。あの頃はお前さんも可愛かったもんじゃ。かっかっか」
 サンタは楽しそうに笑う。





「――――――――――!!!」





『結局私はもらえなかったけど―――――』





 違った。

 プレゼントはあったのだ。

 ただ、それが少し遅れただけ。

 2人の縁寿には、ちゃんとプレゼントが送られていたのだ。





 目頭が熱くなる。
 それを悟られまいと、縁寿はうつむいた。
「悪かったのう、ずいぶんと遅くなって」
 縁寿は首を横に振る。
「あの日、お前さんの家には行ったんだがの。ワシが行ったとき、家は影も形も残っとらんかった」
 縁寿はこらえきれず目を覆った。
「やっと届けることができた。ありがとうな、会いに来てくれて」
 それは、12年越しのクリスマスプレゼント。
 決して届くことのなかった願いは、今、この瞬間、ようやく果たされた。
「……いいの、私なんかがもらって?」
 縁寿は小さな、本当に小さな声で、恥ずかしそうにそう言った。
 その声に、サンタは力強く答える。
「言ったはずじゃ。サンタは良い子にしかプレゼントはしないとな」



 くす。



 その言葉を聞いて、縁寿は小さく笑った。
 サンタを足蹴にするなんて、とんだ良い子もいたものだ。
「ありがとう、サンタさん」
 縁寿は涙を拭き、とびきりの笑顔をサンタに送る。
 その瞬間だけ、彼女は戻っていた。
 12年前の、小さな自分に。
「礼には及ばんよ。ぬいぐるみはプレゼントできても、お前さんの本当に大切なものはプレゼントできんからの」
 サンタは残念そうに呟いた。
 しかし縁寿はこう答える。
「そんなことないわ。これで十分よ」
 そして力強く、こう言った。
「兄さんは、私がこの手で取り戻す」
 それは、新たな決意。その瞳には、寂しさも、悲しみも見られなかった。





 私を想ってくれる人は、ここにもいる。















「世話になったわね。それじゃあ、今度こそ行くから」
「気ぃつけろよ。暇があったらいつでも来い。そんときゃ、ワインを開けて待ってるわい」
「期待してるわ」
 二人は握手を交わす。そして縁寿も、サンタに別れの言葉を交わす。
「ありがとう、今日のことは忘れないわ」
「なあに、気にするな。その代わり、何かあった時はいつでも来い。待っとるぞ」
 そしてサンタは、大きなその体で縁寿を抱きしめる。
「うん、ありがとう」
 縁寿もその背中に、めいいっぱい腕をまわし抱き返した。
「さあ、それじゃあ行きましょう」
「あ、ベルン待って」
 そう言い、縁寿は眠っている真里亞の隣に跪く。
 真里亞は気持ち良さそうに眠っている。縁寿はその頭を優しく撫でた。
「元気でね、真里亞お姉ちゃん・・・・・・・・
 そして、縁寿は真里亞の額に軽くキスをする。
 次の瞬間、縁寿の体は白い光に包まれた。ベルンカステルも同じ光に包まれ、次第にその光は強くなっていった。
 やがて光が部屋全てを包み込む。そして光が最も美しく輝いた後、光は消え、二人の姿は消えていた。
「頑張れよ、二人とも」
 後には、小さな光の粒だけが残っていた。












 朝の光が窓から部屋へと入ってくる。その光はリビング全体を照らしていた。
「うーーーん」
 朝の陽ざしを浴びて、楼座は眠たそうな目をこすりながら目を覚ました。
「……あれ、何でこんな所で?」
 楼座が目を覚ましたのは、いつもの自室のベッドではなく、リビングのソファーの上だった。
「えーと、昨日は確か…」
 必死で記憶を辿る。しかし何も思い出せない。
「おかしいわね、昨日はお酒飲んだのかしら?」
 楼座は頭を働かせるが、それすら思い出せない。
 それもそのはず。サンタが楼座をここへ運んだ後、ベルンカステルが魔法で昨日の記憶を思い出せないようにしたのだ。
 しかし、そうとは知らない楼座は、お酒のせいで忘れていると思っている。
「気をつけなきゃね。こんなみっともないところ、人には見せられないわ」
 そう言い、楼座は一人で納得した。
 その時、上から階段を駆け降りる音がしてきた。
「ママぁあああああーーーーーー!!!」
 2階から、真里亞が勢いよく降りてきた。
「あらあら、どうしたの。そんなにあわてて」
 真里亞は興奮気味の我が子を落ち着かせる。
「プレゼントもらった!!うーーー!!」
 それを聞いて楼座は思い出した。
 ああ、そうか。今日はクリスマスだった。
 酔って昨日のことは覚えていないが、この様子だと無事プレゼントを部屋に置けたようだ。
「良かったわね、真里亞。サンタさんにもらったの?」
 楼座は真里亞に尋ねた。
「んーん、違う」
「え?」
 真里亞の返答は意外なものだった。サンタの存在を信じて疑わないこの子が、もらったのはサンタではないと答える。まさか、プレゼントを置くときに姿を見られたか?
 しかし、真里亞の言った言葉はさらに楼座を困惑させた。
「縁寿ちゃん!!」
「ええ!!?」
 どうして縁寿ちゃんが?混乱する楼座に、真里亞はプレゼントを見せた。
「えっ、これって…」
 それは10月の親族会議の時に、縁寿が真里亞に渡したキーホルダーだった。もらった時に比べると随分汚れてはいるが、間違いなく同じものだ。
 何故、以前もらったものを真里亞はクリスマスプレゼントだと言うのか。楼座には分からなかった。しかし。
「うー!!縁寿ちゃんからもらった!!うー!!うー!!」
 娘の喜んでいる姿を見ると、細かいことはどうでも良くなってきた。
「まっ、いっか」

 真里亞はクリスマスプレゼントをもらったと、大はしゃぎしている。
 その手に握られているのは、人形を括り付けたキーホルダー。
 それは汚れ、擦り切れ、お世辞にも綺麗とは言えない。けれども、それこそ縁寿が大切に持っていた証。12年間、肌身離さず身につけていたものだ。
 親族会議の時に渡そうと思って、でもその願いは永遠に叶えられることはなくなって……。
 でも、決して届くことのなかった願いは、今、この瞬間、ようやく果たされた。
 それは、もうひとつの願い。
 もう1つの、12年越しのクリスマスプレゼント。
「うー!!縁寿ちゃん、ありがとう!!」





 真里亞は縁寿からプレゼントをもらって大喜び。その声は、2階の自分の部屋にまで届いていた。
 そんな真里亞の部屋の机には、一通のカードが置いてあった。それは、クリスマスのメッセージカード。プレゼントと一緒に添えられていたものだ。
 そのカードには、可愛らしい文字でこう書いてあった。










『Happy merry Christmas Maria』












2009.08.01 Sat l うみねこ l コメント (1) トラックバック (0) l top

コメント

こんにちは~^^!
縁寿とベルン様のほのぼの話とっても良かったですよ~www><

最初、お?シリアス?って思ったら以外に無邪気な縁寿とベルン様(そして真里亞!)の様子が伺えて楽しく読ませて頂きました♪♪
三人のサンタ姿…想像しただけでかぁいいですね><vV
個人的に今回のMVPは縁寿でした!あの楼座無双を薙ぎ払うとは、縁寿…恐ろしい子!^^;
そして途中にひぐらし某メンバーが出てきて思わずはしゃいじゃいましたよ!!(>▽<)笑
というわけで、今回も素敵な小説ありがとうございました!
楽しく読ませて頂きました><!

あ、それと、私就職が決まったので時間的に大分余裕が出てきました!なので、是非とも湖都さんのブログと相互リンクさせて頂きたく思います!

それでは!失礼しました^^!
2009.08.04 Tue l 遊紗. URL l 編集

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