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交差座標のスターダスト β 第9話です。
物語も佳境に入ってきました。よろしくお願いします。
「では只今より、第731回円卓会議を始めるッ!! お前たち、準備はいいか!?」
 一堂に会したラボメンを前に、俺は円卓会議の開始を高らかに宣言する。しかし……。
 ただ1人(まゆり)の拍手を除き、他のメンバー全員から白い目で見られる……。おのれ、ダル……。お前はこっち側の人間だろうが!
 みんなの冷たい目線がさすがに痛く感じ始めた頃、ようやく紅莉栖が口を開いた。
「……ちょっと、岡部。何なのよ、その円卓会議っていうのは……?」
「フッ、分からないと言うなら教えてやろう、助手ぅ」
 俺は白衣を翻し、皆に向かって叫ぶ。
「円卓会議! それは、世界を混沌へと導くため、全人類から選ばらし我がラボメンによって導かれる、崇高にして偉大な―――」
「要するに、ラボのみんなで話し合いをするってことっしょ?」
「ダル! 貴様せっかく人が説明しているのに余計な真似を!」
「はぁ……、ただの話し合いに何でそんな仰々しい名前を付けるんだか……。厨二病乙」
「黙れ、クリスティーナ! 円卓会議は未来ガジェット研究所の方針を決めるため、毎週欠かさず開いている神聖にして崇高なる場だぞ! 貴様も我が助手なら、少しはその重要性を認識するのだな!」
「だから! 私はクリスティーナでもお前の助手でもないと言っとろーが!! だいたい731回って何よ! あんた14年間も毎週欠かさずこんな馬鹿げた会議を開いているわけ!? 34歳にもなってまだ厨二病みたいな事してるの? 少しは年齢を考えたらどうですか、岡部倫太郎さん?」
「岡部ではない! 鳳凰院……、凶真だっ!!」
 俺が懇切丁寧に説明しても、鈴羽と真帆は未だに白い目でこちらを見てくる。くそう……。
「何が起こったの……? 岡部さん、頭でも打った……?」
「ダメだ、父さん。あたし、ついていけない」
 鳳凰院凶真を初めて見るメンバーは、俺の事を珍獣のように見てくる。おのれ、この場にルカ子やフェイリスがいればまだこちらに分があったのだが……。
「とにかく! 今後の方向性について皆で話し合おうと言っているのだ! 分かったか、我が手足よ!」
「誰が手足だ、誰が!!」
「岡部さん、ひょっとしてオリジナルの紅莉栖にも、そんなふうに接していたの?」
 ぬぐ……。同じラボと言えど、やはり始めたばかりメンバーだとやりづらい。未来では皆理解して(諦めて)くれたのだが……。いや、ここで挫けてはいけない。未来の運命はこの俺の手にかかっているのだ!
「ごほん。前置きが長くなったが、まずは我がラボの目的を再確認する。俺たちの目的、それはこの世界線をシュタインズゲートに導くこと。それが、この世界線のまゆりと鈴羽の救出、延いては、紅莉栖を救う事にも繋がるし、第3次世界大戦を防ぐことにもなる」
 俺がラボの目的を説明すると、先程まで白い目で見ていた真帆が賛同してくれる。
「そうね、私も同じ意見だわ。シュタインズゲートに到達することができれば、世界線が変動して第3次世界大戦も未然に防げる。そうすれば、戦争の先駆けとなった秋葉原のテロもなくなるわけだから、まゆりさんや鈴羽さんが犠牲になる事もないわ」
「その通りだ。シュタインズゲート世界線に到達すれば、今まで起きた惨劇、あるいはこれから起こるであろう惨劇を未然に防ぐことができる。シュタインズゲートに辿り着く事が全てだと言っても過言ではない」
「問題は、どうやったらそこに到達できるかだね」
 俺たちが抱える一番の問題を、鈴羽が投げかける。鈴羽の言う通り、シュタインズゲートに到達するのは一筋縄ではいかない。
「鈴羽の言う通り、シュタインズゲートを目指す上では様々な問題点がある。まず、α世界線とβ世界線。2つの世界線の狭間をどうやって見つけるか。紅莉栖を助けると、まゆりが死ぬ。まゆりを助けると紅莉栖が死ぬ。この矛盾を解決するにはどうするか。そして、世界線を変えるには過去に戻る必要があるため、タイムマシンを開発しなければならない。他にも数え上げればきりがないが、それらを解決する前に、前提として俺たちには決定的に欠けているものがある」
 俺のその言葉に、皆が頷く。
「この世界線の俺が、この場にいない事だ」
 こちらの世界の俺は、全てを諦めていると聞いている。そんな状況では、とてもシュタインズゲートを目指す事などできない。
「俺はこの世界線の人間ではない。いずれはまゆりと鈴羽を連れて、未来に帰らなければならない。だから、この世界で皆をシュタインズゲートに導く存在が必要になる。その為には、何としてこの世界線の俺の目を覚ます必要がある」
「けどさ、どうやってオカリンの目を覚ますん? 僕が電話した時は、何を言っても聞く耳持たずで、取り付く島もなかったんだけど。最近はずっと着信拒否で、どこにいるのも分からないわけだが。何か具体的に方法でもあるん?」
 ダルが痛い所を突いてくる。確かに、この世界線の俺はダルの電話にすら出ないほど、精神的に追い詰められている。それについて、具体的な解決策があるわけではないのだが……。
「それは……、俺にも分からない」
「あんたね、あれだけ偉そうに会議の宣言をして、重要な事は何も考えてないわけ? 分からない事はこっちに丸投げして、私たちに考えろって言うの?」
「そうだ」
「…………っ!」
 有無を言わさぬ俺の口調に、思わず紅莉栖は口ごもる。
「この世界線の俺の目を覚ます事。それは、俺の仕事ではないと考えている。何故なら、俺が苦しい時、悲しいとき、迷っている時。そんな時、いつも俺の背中を押してくれたのは、ラボのみんなだからだ」
 俺はゆっくりとラボを見回し、皆の顔を見つめる。
「未来を救うのを投げ出して、惰性で過ごしていた日々の中、鈴羽が語ってくれた未来の想いが。俺が下らない事を言って、比屋定さんを傷付けた時、ダルの拳が。紅莉栖を救えないと嘆いている俺に向かって、激を飛ばしてくれた比屋定さんの気持ちが。まゆりと鈴羽を失って、絶望した時、まゆりが書き残してくれた手紙が。そして、おびただしい数の世界線でまゆりを救うことができず、立ち上がる気力すらなくなっていた俺に、未来を指し示したくれた紅莉栖の言葉が。みんなの想いが、いつも俺を支えてくれた。俺を立ち上がらせてくれた。そんなみんながいてくれたから、今の俺がある。だから、このラボのみんななら必ず、この世界の俺を立ち上がらせてくれる。俺はそう信じている」
 俺は、自分の想いをみんなに伝える。これまで俺を支えてくれた、みんなの想い。それは、紛れもなく、今の俺を形作ってきたものだ。だからこそ、今の俺がここにいる。その想いを、みんなに知ってもらいたかった。
 その時、比屋定さんが手を叩き、俺に拍手を送ってくれた。
「岡部さんの言う通りだわ。この世界のあなたの目を覚ますのは、きっと私たちの役目ね。大丈夫。私たちならきっと、あなたの目を覚ましてあげられるから」
 そんな真帆の言葉に、思わず俺は笑みが溢れる。
「岡部のくせに、たまにはいい事言うじゃない」
 そんなふうに、紅莉栖はいたずらっぽく言う。
「いいわ、やってあげる。私たちが必ず、あんたの目を覚ましてあげるから」
 紅莉栖は俺の目を見つめ、そう答えてくれた。
「そうだね。この世界のおじさんの目を覚ますのは、きっと私たちの役目だよ」
「いざとなったら、僕のこの熱い拳がオカリンの目を覚ましてやるのだぜ」
「まゆしぃも、頑張ってオカリンを起こしてあげるのです」
 鈴羽も、ダルも、まゆりも。皆、想いは同じだった。
 俺は再びラボを見回し、皆を見つめる。そして、高らかに宣言する。
「ではこれより、オペレーション・スターダスト、第2次作戦を開始する!」



「というわけでダルよ。早く俺を見つけるのだ」
「やっぱり肝心な所は人任せの件について」
 文句を言いながらも、ダルはPCのキーボードを叩いている。なんだかんだで、頼りになるのがうちのスーパーハカーなのだ。
「どうだ、携帯から俺の居場所は突き止められそうか?」
「多分大丈夫。電源はオフにしてないみたいだから、今探索中」
 しばらくPCを操作していたがダルだったが、やがて画面に地図が表示され、その一点が青い点で表示される。
「おk、繋がった」
「ふむ、どうやらまだ都心にいるようだな。これなら割とすぐ見つかりそうだな」
「で、どうするの岡部? 今までは橋田が話しても説得は無理だったんでしょ。直接行って、縛り上げてでも捕まえる?」
「縛り上げる……。どうせなら女王様スタイルで罵りながら縛ってほしいお。牧瀬氏、もう一回、縛り上げるって言ってみて」
「黙れ、HENTAI!! アンタもう黙ってなさい!!」
「ありがとうございます! 我々の業界ではご褒美です!」
 紅莉栖の罵倒も、ダルにとってはご褒美にしかならないようだ。紅莉栖の罵りにやたら興奮しているダルに対し、鈴羽は頭を抱えている。
「……なんていうか、ごめん……。うちの父さんが……」
「いいのよ、あなたのせいじゃないわ。でも、鈴羽さんも大変ね」
「……未来では、ここまでじゃなかったんだけどな……」
「いや、未来でも似たようなものだったぞ。娘のいない所ではな」
「嘘……、それはちょっとショックだな……」
 真実を知り、鈴羽はショックを受けているようだった。余計な事を言ったか? まあ、事実だから仕方がない。
「本当、一体どうやって結婚できたのかしら?」
「人類最大の謎ですね。結婚できたのも不思議ですし、人類初のタイムマシンをこんなHENTAIが開発できたなんて……」
 真帆と紅莉栖が怪訝そうに呟く。確かに今でも謎だ。どうしてダルがあんな美人と結婚できたのか。
 そんな2人の会話を聞いてか、まゆりがすかさずダルのフォローを入れる。
「そんなことないよ~。ダルくんもね、良いところあるんだよ~。こないだもね、暑いだろうからって、まゆしぃにアイスを買ってきてくれたのです」
「へえ、そうなんだ。橋田も良い所あるじゃない」
「ふふん、僕はただのHENTAIではないお。HENTAIという名の紳士なのだぜ!」
「そうなんだよ~。美味しいミルクバーを買ってきてくれたんだ」
「まだ冷蔵庫にあるから、真帆たんもどぞ。できれば、アイスを口いっぱい頬張って、口からミルクを垂らしながら食べるとなおいいお。合法ロリ、ハアハア」
「………………」
「………………」
 ダルのHENTAI発言を聞き、真帆と紅莉栖はゴミを見るような目でダルを蔑む。
「ダルくん、こうやって食べるの?」
 いつの間にかアイスを取り出してきたまゆりは、ダルの食べ方を忠実に再現している。
「そうそう、まゆ氏のミルクバー頂きました!」
「やめなさい、まゆりさん! 橋田さんの言う事を間に受けちゃダメよ!」
「橋田~!! アンタいい加減にしなさいよ!」
 先程なシリアスな円卓会議など、どこ拭く風。今日もダルは絶好調のようだ。
 そんなダルを見て、鈴羽はさらに頭を抱えるのだった。

 ✳

「え~、ごほん。話が脱線してしまったが、この世界の俺をどうするか話を戻そう」
「オカリン、議長ならもっと会議をスムーズに進ませないと」
「アンタのせいでしょうが! このHENTAI!」
 うむ、絶妙なツッコミ。もはや俺が自分で突っ込むまでもないようだな、さすがは我が助手。
「ダルの説得にも応じなかったと聞くが、どうする? 電話での説得が無理なら直接話をするしかないが、無理やりここに連れてくるべきかどうか……」
「いくら何でも無理やりは良くないと思うわ。そんな事をしても、岡部さんの不信感を買うだけだと思うし……。やっぱり、まずは話し合うべきじゃないかしら」
「うむ、そうだな。ダルというのがいけなかったのかもしれないしな」
「オカリン、その発言、納得しかねる」
「まあまあ、父さん。今はみんなに協力してもらおうよ」
「うむ、ダル1人で無理なら、皆で説得するまでだ」
 ラボメン全員で訴えれば、説得にも応じるかもしれない。3人寄れば、文殊の知恵だ。
「ダル、電話をかけてくれ」
「オーキードーキー」
 ダルは携帯を手に取り電話発信をする。以前は着信拒否になって、電話すら繋がらなかったらしいが……。すると、すぐに呼び出し音が鳴りはじめた。どうやら今は着信拒否は解除しているようだ。
 かなり長く呼び出し音が鳴っている。やはり電話での説得は無理か? そう思った時……。
「あ、オカリン?」
 呼び出しに出たようだ、ダルが声を上げる。
「オカリン、今無事なん? …………いや、やっぱりどうしても話したいことがあってさ。…………ちょ、ちょ、ちょい待ち。こっちもまだ伝えたい事があるっつーか……」
 ダルの話しぶりから、2人の会話はかなり険悪なようだ。思っていた以上に、今の俺は頑なになっているらしい。やはり電話での説得は無理なのか? そう思っていた時……。
「橋田さん、私に代わって!」
 すかさず真帆が声を上げる。
「あ、ちょい待ち。今電話代わるから」
 ダルが真帆に携帯を差し出す。一瞬、真帆は躊躇うが、やがて意を決し携帯を手に取る。そして……。
「…………岡部さん」
 小さな声で、携帯に話しかける。しかし…………。
「岡部さん!? どうしたの、岡部さん!!」
 真帆の口調から、ただならぬ雰囲気を感じる。電話の先で、何かあったのか?
「岡部さん! 返事をして、岡部さん!!」
「比屋定さん、どうしたんだ!?」
 堪らず俺は声を上げる。しかし…………。
「……………………」
 携帯を耳に当てたまま、真帆は硬直したように動かない。やがて、彼女は携帯を耳から離し、呆然とそれを見つめる……。
「…………岡部さん」
 真帆はその名を小さく呟き、立ち尽くすだけだった……。





















「…………っぐ」
 思わず俺は呻き声を上げる。体の節々が痛い。体も寒い。
 夏とは言え、新聞紙だけで寝るのはかなり堪える。俺は痛みを堪えながら、ようやく体を起こす。
 公園のベンチは相変わらず硬く、十分に体を休める事もできない。俺はのろのろと立ち上がり、公園を後にする。
 こんな事は止めて、ラボでも自宅でも戻り、ゆっくりと横になればいいのだが……。
「……何をやっているんだろうな、俺は……」
 あのテロの日、まゆりと鈴羽を失った俺は自暴自棄になり、こうやって都内をさまよい歩いている。
 家にも戻らず、ダルの電話にも出ず、ただふらふらと浮浪者のように歩き回り、野宿を繰り返していた。
 満足に食事も摂っていない体は、悲鳴を上げていた。それでも、ラボに戻る気にはなれなかった。
 タイムマシンがあるから、あんな場所を俺が作ってしまったから、こんな悲劇が起こる。
 神の摂理に逆らった代償。それを、今俺はこうして身に染みて味わっている。
 あんな物、作らなければ良かった。電話レンジも、タイムリープマシンも……。
 あんな物がなければ、まゆりは…………。
「…………まゆり」
 まゆりを救うため、紅莉栖を犠牲にした。なのに、何の意味もなかった……。
 紅莉栖の犠牲を無駄にした……。まゆりだけは、何があっても守らなければならなかったのに……。
「…………だったら、どうすれば良かったんだよ」
 まゆりを犠牲にして、紅莉栖を助けるべきだったのか? ……馬鹿な事を。
 俺は散々悩んだ挙句、こちらの世界を選んだ。紅莉栖も、まゆりを助ける選択肢を選んだ。
 なら、どうしようもないじゃないか。結局、運命は変えられないんだ。
 まゆりを助けたところで、結局それは先延ばしになっただけだった。ならば、紅莉栖を助けたとしても、同じ結末だっただろう。
 結局俺は、2人とも助ける事はできない。神の摂理には逆らえないんだ。
 幾度となくタイムリープした事も、みんなの想いを犠牲にして、世界線を変えてきた事も、全ては無駄だった。
 俺のしてきた事は、全部無駄だったんだ……。
「…………疲れた。もう疲れたよ…………」
 全てがどうでもいい……。もう、生きる理由もない……。
 でも、2025年まで、俺は死ねないらしい。なら、後はこうやって、日々を惰性で過ごしていこう。
 14年後、死が俺を迎えに来る事だけを楽しみに、緩慢に過ごして行こう……。その時……。
 スマホの着信音が鳴る。ここ数日、親とも連絡を取っていなかったスマホが突然鳴り出した。
 誰からと思い、画面を覗き込んだ俺は辟易する。電話の相手はダルだった。
 テロの後、何度も俺に連絡を取ってきた。タイムマシンを作ろうと。まゆりと鈴羽を助けようと。
 だが、あんな物があるから皆が不幸になるのだ。神の摂理に抗った結果がこれなのだ。
 俺が何度ダルに説明しても、あいつは納得しなかった。やがて、最後には自分一人でもタイムマシンを作ると言い、俺たちは連絡を絶ったのだ。
 俺はそれを止めようとは思わない。もう、タイムマシンに関わるのは御免だ。
 例え、ダルがタイムマシンを完成させたとしても、結果は同じ。まゆりも鈴羽も助けられない。
 なら、俺が放っておいても構わない。そう思い、俺から連絡を取ることもなかったのだが……。
 今更何の用なのか。俺は仕方なく、電話に出る。
「……何だ?」
『あ、オカリン?』
 電話の向こうから、変わらないダルの声が聞こえてくる。
『オカリン、今無事なん?』
「……そんな事はどうでもいい。何の用だ?」
『……いや、やっぱりどうしても話したいことがあってさ』
「話だと? 何を話すって言うんだ? 俺はもうタイムマシンには関わらないと言っただろう! 放っておいてくれ!」
『ちょ、ちょ、ちょい待ち。こっちもまだ伝えたい事があるっつーか……』
 ダルはまだ、俺に話したい事があると言う。一体何を話すと言うのか。あれほど、タイムマシンには関わらないと言ったはずなのに。
『あ、ちょい待ち。今電話代わるから』
 ダルは急に、電話を代わると言う。一体誰に代わると言うのか。ルカ子か? フェイリスか? どちらにせよ、誰が電話に出たとしても、俺の考えは変わらない。
 やがて、電話の相手が代わる。俺は不機嫌そうに、向こうに話しかける。
「……誰だ?」
「………………っ」
 電話の相手は、俺の機嫌が悪い事を悟ったようで、思わず息を飲む。
 声の感じからして、若い女のようだった。やはりフェイリスか? ルカ子の可能性もある。
 少し間を置いてから、電話の相手は言葉を発した。
「お―――」
 その瞬間、後頭部を激しい痛みが襲った。



「橋田さん、私に代わって!」
 思わず私はそう叫ぶ。話しの流れから、2人の会話が険悪なものだと分かった。このままだと、電話を切られるかもしれない。そう思うと、居ても立ってもいられなかった。
「あ、ちょい待ち。今電話代わるから」
 橋田さんが、私に携帯を差し出す。自分から言っておいて、いざ話そうと思うと、何を話したら良いか分からず、一瞬躊躇する。しかし、私は意を決し携帯を手に取った。
『……誰だ?』
 電話の向こうで、明らかに不機嫌だと分かる声で岡部さんが尋ねてきた。
「………………っ」
 彼の言葉に、思わず身構えてしまう。
 一体、何を話せば良いのだろう? 何を話せば、彼の気持ちを変えられるのだろう?
 電話を代わってもらったのに、何を話せば良いか分からない……。
 それでも、何か話さなくては。私は、小さな声で彼の名を呼ぶ。
「…………岡部さん」
 私がその名を言い終える前に、電話の向こうから何かを殴るような音が聞こえてきた。そして、誰かが倒れる音……。



「ぐあっ!!」
 激しい痛みに襲われた俺は、そのまま路上に倒れこむ。
「……あ、ぐ……」
 痛む後頭部を押さえていると、頭上から声が聞こえてきた。
「ようやく見つけたわよ、リンタロ」
 聞きなれない声に、痛む頭を押さえながら俺は上を見上げる。
 知らない女だった。眼鏡をかけ、白衣を着た長身の女が俺を見下ろしていた。
「……誰だ?」
 そう言うと、両脇を屈強な男たちに抱えられ、俺は無理やり立たされた。
 俺の目を覗き込むように、女は話しかけてくる。
「こうして直接会うのは初めてね。あなたは私の事を知らないけれど、私は良く知っているわ。マホやアレクシス―――レスキネンからあなたの話を聞いていたもの」
 レスキネンの名が出て、俺は警戒する。
「……お前、レスキネンの仲間か?」
「仲間だった、と言うべきかしら。正確には、仲間のふりをしていたのだけれど」
 女の口調から、レスキネンの仲間とは少し違うようだった。仲間割れか? しかし、どちらにせよ、俺に対して友好的ではないようだ。
「自己紹介がまだだったわね。私はジュディ・レイエス。ヴィクトル・コンドリア大学、精神生理学研究所の教授よ。もっとも、本当の職場違うのだけれど。マホやアレクシスから、あなたの事はよーく聞いているわ。よろしくね、リンタロ」
 レイエスと名乗った女は、気味の悪い笑顔を見せながら俺に話しかけてくる。
「……教授さまが、俺に一体何の用だ?」
「言わなくても、察しはついているのでしょう?」
「……タイムマシンか」
「ご明察。あなたが持っているタイムマシンに関する情報が欲しいの。アレクシスに出し抜かれたと思ったけど、向こうは勝手に警察に捕まってくれて、結果的には上手くいったわ。こうして、あなたを手に入れる事ができたもの」
 警察に捕まった? 俺がいなくなってから、奴らのアジトで何かあったのか……? しかし、今となってはどうでもいい事だ。
「さあ、それじゃあ私たちと一緒に来てもらおうかしら」
「……好きにしろ」
「あら? やけに聞き分けがいいわね。抵抗しないのかしら?」
「……もうどうでもいい。タイムマシンが欲しければ勝手に作れよ……。第3次世界大戦が起きようと、知ったことじゃない……」
 もういい。拷問はレスキネンから散々受けてきた。タイムマシンの情報が欲しければくれてやる。お前たちがタイムマシンを作ろうと、知ったことか……。
「なら話は早いわね。一緒に来てもらうわ」
 そう言うと、レイエスは俺が地面に落としたスマホをちらりと見る。そして……。
 ハイヒールで、スマホを粉々に踏み砕いた。
「連れて行きなさい」
 やがて俺は拘束されたまま、奴らの車に押し込まれた。
 レイエスが満足そうに笑っていたが、俺にはそれもどうでも良かった。
 もうどうでもいい。生きる理由なんて何もない。
 ならば、ただ流されるまま、生きていこう。
 このまま時の流れに身を委ね、緩やかに死を迎えるその日まで……。



「岡部さん! 返事をして、岡部さん!!」
 繰り返しその名を呼ぶが、電話の向こうから何も聞こえない。
「…………岡部さん」
 音を出さなくなった携帯を握り締め、真帆は立ち尽くすだけだった……。
「先輩、一体どうしたんですか!?」
「……分からない。何か……、殴られるような音がして……。多分、岡部さんが殴られたんだと思う。しばらく、誰かと話す声がしたんだけど、それきり……」
「……誰かに襲われた……、って言うことですか?」
「……多分」
「そんな……!」
 真帆の説明を聞き、紅莉栖が声を失う。
「まさか……、ストラトフォーか?」
「でもおかしいよ、おじさん。レスキネンは昨日警察に捕まったばかりなのに……。混乱もなく、こんなに迅速に行動できるとは思えない」
 確かに鈴羽の言う通りだ。レスキネンが逮捕された昨日今日で、こんなに早く行動できるものなのか? 
 俺がそう疑問に思っていると、真帆が再び口を開いた。
「……さっき、岡部さんと話してた相手の声……、聞き覚えがある……」
「何だって……?」
「声が小さくて聞き取りづらかったけど、多分こう名乗っていた……。ジュディ・レイエスって……」
「レイエス教授!? レイエス教授も、ストラトフォーだって言うんですか、先輩?」
「有り得ない事じゃないと思う。2人は研究所でも一緒に仕事をすることが多かったし、ひょっとしたらストラトフォーの仲間だったのかもしれない……」
「そんな……。レイエス教授も尊敬していたのに……」
 真帆の予想に紅莉栖はショックを受けている。
 無理もない、2人の尊敬する恩師に立て続けに裏切られたのだ。だが、今は感傷に浸っている暇はない。
「とにかく、今は救出する事を考えよう。ダル、俺の居場所はまだ分かるか?」
「それが、携帯を壊されたみたいで、どこにいるかもう分からないんだよね……」
「無理か……。どうにかして連中を追跡しないと……」
「それなら、ストラトフォーにハッキングしてみようか? 僕前にストラトフォーに遊びでハックした事があるから、割と簡単に侵入できるけど」
「遊びでそんな事していたの!? 橋田さん、あなた怖いもの知らずね……」
「スーパーハッカーの僕にとって、それくらい朝飯前なのだぜ」
 ダルは自信満々に答える。本当に頼もしい男だ。だが、今回ハッキングするのはそこじゃない。
「DURPAだ。ダル、ハッキングするならストラトフォーじゃなく、DURPAにしてくれ」
「え?」
 俺の指示を聞いて、ダルが困惑する。
「DURPA ……。アメリカ国防高度研究計画局ね。でも、どうしてそんな所を?」
「以前、ストラトフォーについて調査した事があるんだが、そこである事実が分かった。ジュディ・レイエスは、ヴィクトル・コンドリア大学でもストラトフォーでもなく、DURPAに所属していたんだ。奴はいわゆる2重スパイで、2つの組織で得た情報をDURPAに流していたんだ」
「そんな事まで……。レイエス教授もレスキネン教授も、尊敬していた研究者だったのに……。研究に没頭しすぎて、倫理や道徳まで見失ってしまったのかしら……」
 真帆は哀しそうに呟く。人間、盲目的にまで1つの事に没頭すると、当たり前の倫理観まで失ってしまうのだろうか? 
 SERN、ストラトフォー、DURPA。いずれも、目的の為なら手段を選ばない連中だ。
 マッドサイエンティストとして、奴らの蛮行を絶対に許すわけにはいかない。
「ダル、今すぐDURPAにハッキングするんだ」
「やってみるけど……、DURPAはハッキングした事ないから、かなり時間がかかるかも……」
 ダルの技量を持ってしても、時間が掛かるか……。さすがはアメリカの国防を担うだけはある。
 SERNへのハッキングは20時間掛かった。わずか20時間と言うべきだろうが、今は時間の猶予がない。時間が掛かれば、俺の奪還は困難になる。
「それなら私も手伝うわ。ネットワーク上の事なら、誰にも負けない自信がある」
「そうか、紅莉栖なら……!」
 電脳世界の住人である紅莉栖なら、ダルを超えるハッカーとなり得る。
「頼む、紅莉栖」
「まかせて」
「それじゃあ牧瀬氏、協力頼むお」
 ダルはPCに向かうと、キーボードを高速で叩く。それと同時に、紅莉栖は目を瞑り、DURPAへのハッキングに集中する。
 紅莉栖が映ったノートPCの画面に次々とウインドウが開き、難解なプログラム言語が羅列される。
「すごいお牧瀬氏! これなら……!」
 ダルのキーボードを打ち込む速度がさらに加速する。2人のPC画面を見ると、ウインドウ次々と開いたり、消えたりしている。
「すごいわ2人とも! 信じられない……!」
 真帆が驚きの声を上げている。俺のような素人にはよく分からないが、2人がDURPAのセキュリティを次々と突破しているのだろう。
 俺は2人を信じて、ハッキングが完了するのをじっと待つ。
「ビンゴ!」
 ものの10分と掛からないうちに、紅莉栖が声を上げる。ハッキングが完了したのだ。
「すごいわ紅莉栖! あのファイアウォールをこんな短時間で突破するなんて!」
「こういう時こそ、私が力になれる時ですから。それに、私だけじゃありませんよ。橋田が手伝ってくれたから、ここまで短時間で突破できたんです」
「一応、これでもスーパーハッカーですから。キリッ!」
「ええ! あなたは本当に、天才的なスーパーハッカーよ!」
 先程の見下す視線が嘘のように、真帆はダルを褒め称える。
 普段は変態でも、ハッカーとしての腕前は超一流。それが、ラボメンナンバー003、橋田至なのだ。
「紅莉栖、DURPAのデータでレイエスに関するものはあるか?」
「ちょっと待って、今捜してみる」
 紅莉栖はDURPA内の膨大なデータを検索する。すると……。
「見つけた!」
 いくらも掛からないうちに、紅莉栖は声を上げる。
 紅莉栖はカーソルで、画面内のあるデータを指し示した。
「レイエス教授の携帯端末。これを辿れば、現在地が割り出せるわ」
「良くやってくれた、紅莉栖! レイエスは今どこにいるか分かるか?」
「ちょっと待って」
 紅莉栖がそう言うと、すぐにPC画面に地図が表示された。地図上に、赤い光点が表示される。それがレイエスの現在位置を示すものだ。
「これは……、首都高を走っているのか……?」
 赤い光点は高速道路を走っているようだ。少しずつ、光点が地図上を移動している。
「南に向かっている……」
「東京を離れる気かしら? でも、どうして……」
 俺と真帆は連中の行動に首を傾げる。
 普通に考えれば、身を隠すなら人口が多い所のほうが都合が良い。
 木を隠すなら森。都心なら人ごみに紛れて姿を隠すのも容易だ。
 人1人を連れて身を隠すのに、東京を離れる理由がない。それとも、よほど信頼できる隠れ家でもあるのだろうか?
「……横須賀」
 その時、不意に鈴羽が呟いた。
「……横須賀米軍基地。ひょっとして奴ら、横須賀基地を目指しているんじゃ……?」
 横須賀米軍基地。沖縄を除く、本土における日本最大の米軍基地だ。
 鈴羽の言う通り、連中は横須賀基地を目指しているのでは……?
 俺の考えを裏付けるよう、真帆が呟く。
「DURPAは大統領と国防長官直轄の組織だから、軍からの直接な干渉は受けないと言われているけど……。でも、その主な活動は最先端技術の速やかな軍事転用……。軍との結びつきは強いはずよ。もし、DURPAと軍が結託しているなら、基地を目指す可能性は十分あるわ」
 やはり、連中の目指す先は横須賀基地か。米軍基地に入られれば奪還は不可能だ。
「基地に入られたら手が出せなくなる。鈴羽、すぐ出るぞ!」
「オーキードーキー!」
 俺は即座に、鈴羽と共に車に向かう。その時……。
「待って!」
 真帆が声を掛けてきた。
「比屋定さん?」
「岡部さん、私も連れて行って」
 意外だった。彼女の方から連れて行って欲しいと言うとは……。
 いや、すでに荒事なら経験している。しかし……。
「比屋定さん、でもそれは……」
「危険なのは分かっているわ。それに、私が行っても、何かできるとも思えない……。でも、私も一緒に助けに行きたいの」
 真帆は真っ直ぐに、俺を見つめる。その瞳には、強い決意が宿っていた。
 覚悟は決まっているようだ。
「分かった、一緒に行こう」
「ありがとう」
 俺は真帆を連れて、車に向かおうとした。しかし、今度はまゆりが声を掛ける。
「真帆さん!」
「まゆりさん?」
 まゆりに声を掛けられて、真帆が不思議そうに振り返る。
 まゆりは手を組み、祈るように真帆に言葉を伝える。
「オカリンを……、お願い……」
 それは、心の底からの願いだった。
 本当は、自分も行きたいはず。でも、人数が多くなれば、それだけ危険も増える。
 だから託すのだ。自分の想いを。
 その場に駆けつける事のできない自分の代わりに、真帆にその全てを託す。
 そんなまゆりの想いに、真帆は答える。
 彼女は優しくまゆりの両手を包み、力強く言った。
「大丈夫。岡部さんは、私が必ず連れて帰るから」
「うん……」
 まゆりは真帆の力強い言葉に、精一杯頷く。
「オカリン、首都高は今、テロの影響でほとんどが封鎖されているお。邪魔が入らない分、連中も無茶してくるかも。気をつけてな!」
「レイエス教授の位置情報は、あんたのスマホで見られるようにしたわ。それを見て、追跡して。あと、必ず無事に戻って来るのよ!」
「ああ、恩に着るぞ! ダル、紅莉栖!」
 ダルと紅莉栖の想いも受け取り、俺たちはラボを出る。
 ラボの外に停めてある装甲車に、俺たちは乗り込む。
「飛ばすよ! 掴まって!」
 シートベルトを着けた瞬間、鈴羽はアクセルを全開にする。
 レイエスの追跡が始まった。失敗は許されない。
 望んだ未来を目指すため、自分自身を取り戻すのだ。


2016.10.29 Sat l シュタインズゲート l コメント (0) トラックバック (0) l top

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