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交差座標のスターダスト β 第7話です。
今回はオカリンと真帆メインです。
「比屋定さん、落ち着いたか?」
「……ありがとう、岡部さん。もう大丈夫よ」
 涙を拭いた彼女の顔は、晴れ晴れとしたものだった。そこには、いつもの“比屋定真帆”の姿があった。
「まゆりさんも、ありがとう。あなたのおかげで、少し楽になったわ」
「いいんですよ~。辛くなったら、まゆしぃが頭なでなでしてあげますから♪」
 まゆりは努めて明るく振舞う。そんなまゆりの気遣いに、真帆の表情も明るくなる。その時、白衣のポケットから声が聞こえてきた。
「良かったですね、先輩」
「紅莉栖?」
 スマホから聞こえてきた紅莉栖の声に、思わず真帆は返事をする。
 俺はポケットからスマホを取り出す。いつの間にか『Amadeus』のアプリが起動し、画面には紅莉栖が写っていた。
「ずっと話を聞いていたのか?」
「ええ。最初に岡部に紹介してもらおうかと思ってたんだけど、タイミングを失っちゃって声をかけられなかったの」
「それは悪かった。まゆりとダルにも、お前を紹介しないとな」
 俺と紅莉栖が話をしていると、ダルが興味深そうに聞いてきた。
「え? これ、何なん?」
「彼女は私が作ったAIなの。『Amadeus』って言って、特定の人間の記憶データを元にした、ニューラルネットワーク型人工知能なのよ」
「マジで? じゃあ、僕が話したら返事をしてくれるん?」
「そうですよ、橋田至さん。私は岡部から色々と話を聞かせてもらっているけど、あなたにとっては、初めましてになるわね」
「うぉおおお、すげー! ホントに喋ってるお! ミクたんよりすごいお! これは萌える! これって、コスは他にも色々あるん? 僕としては、ミクたんとメイクイーンの猫耳コスをキボンヌ」
「黙れ! このHENTAI!! 岡部から話は聞いていたけど、本人を前にすると余計HENTAI度が増すわね」
「ああ、その『HENTAI』って響きもたまらん。もっと口汚い言葉で罵って」
「父さん! いい加減にしなよ! 母さんが聞いたら泣くよ!」
「だが断る!!」
 相変わらずのHENTAI発言に、俺は頭を抱える。『Amadeus』にまで、自分の趣味を重ねるとは……。いや、まあ今に始まったことではないが。
「岡部さん。友達は選んだほうが良いんじゃないかしら……」
「いや、普段はいい奴なんだが……」
 ダルのHENTAI発言に、女子の視線が痛い。しばらくは、この視線に耐えることになりそうだが仕方がない。
 その時、まゆりだけが違う視線で紅莉栖を見ていることに気が付いた。
「……紅莉栖さん?」
 まゆりは小さく呟くと、スマホ画面の紅莉栖を見つめている。
「真帆さん……。さっき、紅莉栖って……」
 そう、『Amadeus』は、彼女は牧瀬紅莉栖の記憶データを元にしたAIなのだ。声も、その姿も、本人と変わらない。
 言わば、この瞬間がまゆりと紅莉栖の初めての出会いとなる。
「紅莉栖……」
「分かってますよ、先輩」
 そうして、紅莉栖はまゆりに話しかける。
「はじめまして、まゆりさん。牧瀬紅莉栖です」
「あ、はじめまして……」
「オリジナルの私が、どうなったのかは私も知っています。そして、その理由も。あなたがそれを聞いて、取り乱すのも無理はありません」
「………………」
「でも、この世界のあなたが先輩を責めないように、オリジナルの私も、あなたを責めたりはしないと思います」
「…………!」
「まゆりさんを助けるという選択をしたのは、私なんです。自分で選んだ未来なんです。だから、あなたも自分を責めないで下さい」
「…………でも」
「それに、まだ全てが終わったわけじゃありません。私も、先輩も、岡部も、牧瀬紅莉栖を助けるのを諦めていない。あなたも、紅莉栖を助けるために過去に跳んだんですよね? なら、きっと大丈夫。まゆりさんも、紅莉栖も死なない世界―――シュタインズゲートはきっとあります」
 紅莉栖の言葉を聞き、まゆりの胸には万感の思いがこみ上げる。
 彼女は、涙で濡れた瞳で紅莉栖を見つめる。
「……ありがとう、紅莉栖さん」
 そんなまゆりに、紅莉栖は優しく微笑み返す。





「みんな、今日は色々あったから、後は休もう」
 まゆりも落ち着きを取り戻したので少し休もう。本当に長い1日だった。さすがにみんなもクタクタだ。
「うむ、みんな疲れてるし、ちょっと休んだほうがいいっしょ。けっこう人数いるから、また後で買い出し行かんと」
「それと、今日の泊まりだが、さすがにこのスペースに全員はキツくないか?」
 ラボは普段鈴羽が寝泊りしているから、毛布やら何やら色々置いているが、さすがに5人もいると手狭に感じる。
 その時、真帆が名乗りを上げる。
「それなら、私はホテルに戻るわ」
「比屋定さん、でもそれは危なくないか? 今は非常時だし、一人で外に出るのは危険だと思うが。どうなんだ、ダル?」
「ん~、まあアキバの外に出れば普通に人もいるし、大丈夫なんじゃね? 今は警察も自衛隊もそこらじゅうにいるし。心配ならオカリンが送ればいいお」
「そうだな。比屋定さん、ホテルに戻るなら俺が送るが、どうする?」
「それならお願いするわ。チェックアウトもしていないし、私の荷物も置きっぱなしになってるから、一度戻りたいの」
「分かった、じゃあそうしよう」
「ねえ、岡部。私は今日は先輩と一緒にいるから、私も連れて行ってくれる? いいですよね、先輩」
「ええ、もちろんよ」
「了解した。それじゃあ俺は、紅莉栖と一緒に比屋定さんを送ってくるよ」
「なら、その間にまゆしぃたちは買い物行ってくるね」
「父さんはラボをお願いしていい?」
「オーキードーキー」
 留守をダルに任せ、俺たちはラボを出る。例のダルの裏のバイト仲間の助けを借り、秋葉原を出た俺たちは買い出しと、真帆の送りに分かれる。
「気をつけてね、真帆さん」
「ええ、まゆりさんもね」
 駅でまゆりたちと別れた俺たちは、真帆の泊まっていたホテルに向かうため電車に乗る。
 非常時なのに電車が動いていることが意外だったが、よくよく考えれば秋葉原のテロからもう1週間。さすがにそれだけ時間があれば、都市機能は回復するようだ。
 しかし、さすがに以前と同じというわけではなかった。乗客の数はまばらで、すし詰め状態のような、かつての大混雑は見られなかった。
 電車の外を眺め、街並みに目をやると、いたる所に警官や自衛隊員が立っている。自衛隊員に至っては、自動小銃を構えながら警邏している。
 かつては大勢の人で賑わっていた都心部も今や閑散としており、待ち行く人々はショッピングを楽しむこともなく、足早に家路についていた。
 目に映る光景が、有事の際の物々しさを語っていた。そんな街の様子を見て、真帆は寂しそうに呟いた。
「……本当に、戦争が始まったのね……」
「ああ。今はまだ、あまり顕在化していないが、あと数年もすれば本格的な戦争が始まる。いずれは、ここも戦場になってしまう……」
「………………」
 俺の言葉を聞き、彼女は悲しい顔をする。例え、馴染みのないこの街でも、近い将来戦場になると聞けば、誰しも複雑な感情を抱くだろう。
「……ねえ岡部さん。あなたのいた未来は、どんな所なの?」
「……そうだな」
 真帆にそう聞かれ、俺は思わず口ごもる。
「あまり楽しい話じゃないが、それでも聞くか?」
「……ええ」
 真帆に促された俺は、ゆっくり口を開く。
「……俺のいた2025年では戦争が本格的になって、今みたいに気軽に外に出られるような状況じゃないんだ。外国の部隊や組織も、かなりの数が国内に入ってきているし、国内ですら派閥や抗争なんかで一つにまとまっていない。そんな状況だから、みんな身の安全を確保するだけで精一杯。誰かを気遣う余裕なんてないんだ。だから争いが絶えない。小さな小競り合いから、殺人まで……。犯罪なんか日常茶飯事だ。それでも、核はまだ使われていない。だから、劣悪な環境でも、まだ多くの人が残っている。でも、それももう長くない……。鈴羽の言ってた未来では、核戦争後の世界人口は、10億人まで減ってしまう……。60億の人間が死ぬんだ。そして……、その未来を選んだのは……、俺だ……」
「………………」
「分かっていた。分かっていたつもりだった。散々鈴羽から聞かされていた。未来が、どうなるか。でも、それは漠然としたイメージだけで、何のリアリティもなかった。実際に、戦争が起きるまで、どこか他人事のような気がしていたんだ。そして、今でも本当の意味では分かっていないと思う。鈴羽が経験した、2036年に行かない限り、多分本当の意味で理解は出来ないんだ……」
「理解する必要はないわ。だって、岡部さんは未来がどれだけ残酷か、すでに知っているもの。これ以上、あなたに辛い未来を見てほしくない。1人で抱え込んでもダメよ。そんな未来は、見る必要はないわ」
 真帆は俺を気遣うように、そう応える。彼女のそんな気遣いに、俺は素直に感謝する。
「ありがとう、比屋定さん」
「いいえ。ごめんなさい、岡部さん。つらい話をさせてしまったわね」
「いいんだ。俺も、誰かに話した方が気が楽になる」
「そう? 私で良ければ、いつでも話し相手になるわ」
「ああ。またいつか、話を聞いてくれるか?」
「ええ、もちろん」
 彼女はそう言い、はにかむように笑う。そんな彼女を見て、俺も思わず微笑む。
「うんうん。いい雰囲気ですよ、先輩」
 不意に、ポケットから紅莉栖の声が聞こえてきた。ポケットからスマホを取り出すと、画面にはいつの間にか紅莉栖の姿が映っていた。
「紅莉栖、あなたずっと聞いていたの?」
「はい、もちろん。先輩、いい雰囲気ですよ。やればできるじゃないですか」
「あのね……。何がいい雰囲気なのよ」
「先輩ったら、とぼけなくてもいいのに。大丈夫、私は分かってますよ。まあ確かに、ピンチの時に颯爽と現れたら、どんな女子でも心が傾くかもしれないですね。あ、心配しなくても私は大丈夫ですよ。岡部は私のタイプとは違いますから」
「何の心配よ!」
「もう、私の前ではもっと素直になってもいいじゃないですか。年を経て、ちょっと素敵な大人の魅力を醸し出す岡部に、心惹かれちゃったんですね。先輩ってば、年上が好みだったんですね~。まあ確かに、今の若々しい感じもいいですけど、年をとれば人生経験を経て、壮年としての魅力も出てきますからね。私はいいと思います。先輩って、ほんと浮いた話がなかったですからね。ちょっと安心しました」
「どうしてあなたに、そんな心配をされなきゃいけないのよっ!」
 そう言いながら、真帆は俺からスマホを奪い紅莉栖と言い合いを始める。スマホ画面に向かって叫び続ける真帆を見て、周囲の乗客の視線が集まる。
 少々恥ずかしい気もしたが、真帆と紅莉栖のそんな様子を眺め、思わず俺は苦笑する。
 俺が若い頃、紅莉栖は恋愛に疎い真帆をこうやってよくからかっていたものだ。その頃の光景が蘇り、俺は懐かしさを覚える。
「本当に変わらないな、君たちは」

 そうこうしているうちに、電車は真帆が泊まっているホテルの近くまでやってきた。俺は真帆をなだめながら電車を降りる。
 彼女はまだ、紅莉栖に対し文句を言っている。
「全く、いくら紅莉栖の記憶データを使っているとは言え、あんなところまで似なくていいのに」
 当の本人は、すでにスマホから姿を消している。真帆が本気で怒り出す前に、向こうから通話を切ったのだ。怒られる前に逃げたに違いない。
「それだけ『Amadeus』が優れているってことだろ。いい事じゃないか」
「まあ、それはそうなんだけど……。似なくていいところまで似るっていうのは、開発者としては少し複雑なところだわ」
 彼女はため息混じりに、愚痴を零す。しかし、その表情は決して嫌なものではない。
 『Amadeus』の紅莉栖が本物に似ているということは、それだけ彼女の開発したプログラムが優れている、という事だ。
 実際、今ポケットの中にいる紅莉栖は肉体を持っていないだけで、本物となんら変わらない。だからこそ、先程のように真帆と軽口を言い合うこともできるのだ。
 彼女がいることで、少なからず救われている自分もいた。そのことについて、真帆には感謝をしている。
「ありがとう、比屋定さん」
「え? きゅ、急に何? 私、何かした?」
「ああ、君のおかげで色々と救われている」
「え? あ、あの……、それは、どうも……?」
 今ひとつ状況が理解出来ていない彼女は、少々戸惑っている。しかし、皆まで言う必要はない。
 自分の気持ちを伝えた俺は、彼女の泊まっていたホテルに向かう。

 ホテルは駅から歩いてすぐの所にあった。ほどなくして、俺たちはホテルの正面に立つ。
 ここにまで無事に来られて、俺はホッとする。しかし、真帆はそれとは別に心配事があるようだった。
「何日もホテルを不在にして、怒られないかしら……。連絡、なにも入れてないから……」
「それは仕方ないだろう、連絡を取れるような状況じゃなかったんだから」
「それは、そうなんだけど……。心配だわ……」
「大丈夫、もし何か言われたら俺が説明するよ」
「ええ、お願いするわ」
 真帆は、ホテルを不在にしていたことをかなり心配しているようだった。彼女の不安を取り除くため、俺は真帆を引き連れるようにして、ホテルの中へと入る。
 彼女を引き連れフロントに立つと、受付嬢が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様で―――」
 そう言いかけて、受付嬢の言葉が止まる。彼女は、俺の後ろにいる真帆を見ると「あっ!」と、小さく声を上げた。
「あ……、ど、どうも……」
 そんな彼女を見て、真帆は気まずそうに会釈をする。真帆の姿を見て、受付嬢は大きな声を出した。
「比屋定様っ!!」
 彼女の大きな声を聞き、ロビーにいたスタッフが一斉にこちらを見る。
「あ! ご、ごめんなさい……。その……」
 スタッフの注目を一斉に集めた真帆は、思わず謝ってしまう。しかし……。
「比屋定様!」
「無事だったんだ!」
「え? 帰って来たの!?」
「おい! 行方不明だったあの人、戻って来たぞ!」
 その場にいたスタッフが皆、こちらに集まってきた。俺たちはあっという間に、ホテルのスタッフに囲まれる。その様子に、周囲の宿泊客たちも、何だ何だとこちらに注目する。
「え? あ、あ、あの……」
 周りの状況について行けない真帆は、目を白黒させる。そして、ついにはホテルのスタッフ総出での出迎えとなった。
 皆、真帆の身を案じるように声をかける。彼女は、その受け答えをするのに精一杯だ。
 その時、人ごみをかき分け、明らかに上役と分かる男性が近づいて来た。恐らく、このホテルの支配人だろう。彼は真帆の前に立つと、眩しい程の笑顔で彼女に話しかける。
「比屋定様! 本当に、ご無事で何よりです! お怪我はありませんか?」
「あ、はい。大丈夫です、ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、とんでもございません。テロがあった日からお姿を見なくなったので、私共も心配しておりました。もしや、事件に巻き込まれたのでないかと思いましたが、ご無事で何よりです」
「いえ、本当にすいませんでした。実は、例のテロの件で、ちょっとゴタゴタしてまして……。連絡が取れない状況が続き、このような事態を招いてしまいました」
「それなら致し方ありません、どうか気になさらずに。お客様が無事で、我々一同安心しました。差し支えなければ、どうか今日はゆっくりお休みください」
「本当に、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
 真帆はそう言い、深々と頭を下げた。俺も彼女に合わせて礼をする。
 ホテルのスタッフは、皆彼女の無事に安堵しているようだった。親身になって、彼女の身を案じてくれたホテルのスタッフに、俺も好感を覚える。
「比屋定様のお荷物は、そのままお部屋に置いてあります。当ホテルのサービスは無料で提供させて頂きますので、どうか今日はゆっくりお体をお休み下さい。お連れ様も、宿泊されますか?」
「いえ、俺はただの付き添いなので」
「分かりました。それでは、お帰りはタクシーで送らせて頂きます。それと、警察に届けていた、比屋定様の捜索願いは取り下げてもらいます」
「はい、何から何まで、本当にありがとうございます」
 真帆は再び、スタッフ一同に頭を下げる。ホテルの彼女への気配りに、俺も頭が上がらない想いだった。

「それでは、御用があればお申し付け下さい」
 客室係のスタッフはそう言い、部屋を後にした。俺は部屋を見渡す。
 室内は綺麗に片付けられ、真帆の荷物はデスクの横に、衣類は綺麗に畳まれベッドの上に重ねてあった。
 本来、真帆は片付けが大の苦手で、ラボでも彼女のデスクはいつも散らかっていた。(本人に言わせると、最も機能的且つ効率的な配置らしいが……)
 しかし、今の部屋はそのような事は一切なかった。恐らく、ホテルのスタッフが気を遣って部屋を片付けてくれたのだろう。
「良かったですね、先輩。いつもの部屋を見られずにすんで」
「う、うるさいわね! あれは散らかっているんじゃなくて、最も機能性を追及した結果なのよ!」
 やはり、世界線が変わっても真帆は真帆か。2人のやり取りに、再び俺は苦笑する。
 真帆は片付けられた自分の荷物を広げ、中身を確認する。
「うん、大丈夫。荷物は全部無事だわ。ストラトフォーも、ホテルまでは来なかったみたいね」
「良かった。それなら、もう心配はいらないな」
「本当にありがとう、岡部さん。わざわざここまで送ってくれて」
「礼を言われるほどじゃないさ。明日も午前中に迎えに来るよ」
「そんな、そこまでしてもらわなくても……」
「いいんだよ。それに、1人で歩くとこっちが心配になる。迎えに来たほうが安心だ」
「……そう? そう言うなら、お願いしようかしら」
「先輩、チャンスですよ。岡部と2人きりになる機会なんて、そうないと思いますよ」
「……あなたね。いい加減にしないと怒るわよ」
「はは、じゃあ明日また迎えに来るよ」
「ええ、お願い」
「それじゃあ、私は今夜は先輩と一緒にいるから。先輩、仕事用にスマホがもう一台ありましたよね?」
「ええ、これね」
 そう言うと、真帆は予備のスマホを取り出し、しばらく操作をする。
 ほどなくして、俺のスマホから紅莉栖の姿が消える。すると、真帆が自分のスマホを俺に見せてきた。
「ハロー」
 そこには先程と変わらない、紅莉栖の姿あった。
「これで、私の携帯からでも紅莉栖と話せるようになったわ。岡部さん、今日は紅莉栖を私のほうで預からせてもらっていい?」
「ああ、もちろんだ。2人で積もる話もあるだろう」
「ありがとう」
「先輩の事は任せて。何かあったら、すぐ連絡するから」
「ああ、頼むよ。それじゃあ、また明日」
 そう言い、俺は部屋を出ようとした。しかし……。
「……あ」
「ん?」
 俺が部屋から出ようとすると、真帆が何か言いたそうに声をかけてきた。
「比屋定さん、まだ何か?」
「え、と……。その……」
「………………?」
 彼女は何か言いたそうだが、何故か口ごもる。
「先輩?」
「比屋定さん、何か言いたいことがあるなら、遠慮なく言ってくれ」
 彼女が話すのを遠慮しているような気がしたので、俺は真帆に話すよう促す。
「…………ん」
 真帆はまだ話すのを躊躇っているようだった。俺はそれ以上は無理に催促せず、彼女が自分から話すのを待ってみる。
 やがて、彼女は重い口を開いた。
「……私、実はまだみんなに話していない事があるの」
「話していない事?」
 何の話だろう? みんなの前では話せなくて、俺には話せること……? いくら考えても、俺には何の話かは分からなかった。
 俺は彼女の話に、耳を傾ける。
「岡部さんは……、かがりさんの事をご存知……?」
「……え?」
 何故……、彼女がかがりの事を……?
 かがりは、鈴羽と共にタイムマシンでこの時代にタイムトラベルしてきた。しかし、鈴羽のシュタインズゲートを目指すという考えに賛同できず、任務の途中で鈴羽と決別をした。
 その後は、ストラトフォーに身を委ね、鈴羽の任務を妨害するためひたすら牙を磨いてきた。鈴羽とは考え方の違いで戦闘になったこともあるらしいが、2025年ではラボの一員となっている。
 真帆とは良好な関係を築いているが、それは2025年での話だ。2011年現在の時点では、真帆との接点はないはずだ。少なくとも、俺の世界線では。
「君は、どこでかがりと知り合ったんだ?」
「………………」
 彼女はまだ、話をするのを躊躇っているようだ。しかし、すぐに口を開き、話を続ける。
「かがりさんは、私が岡部さんを救出する時に、協力してくれたの」
「……なんだって?」
 かがりが、俺の救出に? 確かに、真帆がこの時代の俺を救出したと聞いて、一体どうやってという疑問が浮かんだが、彼女の協力があったからか……。
「先輩、かがりさんって、ラジ館で先輩と一緒にいたライダースーツの人ですか?」
 真帆は紅莉栖の言葉に頷く。
「まゆりさんと別れた後、後悔した私はすぐまゆりさんを探しに行ったわ。その途中で、かがりさんと会ったの。最初会った時、かがりさんはものすごく怒っていたわ。よくもママを泣かしたな、って」
「ママ? まゆりさんが?」
「彼女は、鈴羽さんと未来からやって来たの。未来ではまゆりさんの養女で、鈴羽さんと一緒に安全な過去の日本に来たらしいんだけど……。考え方の違いから、途中で鈴羽さんと決別したらしいわ」
「それで、まゆりさんがママなんですね」
「ええ。その後、ラジ館で爆発があったの。かがりさんは、急いでラジ館に向かったんだけど、その時にはもう……」
 真帆は悲しそうに目を伏せる。
「消えてしまったまゆりを救うため、2人で俺を助けに行ったわけか……」
 真帆1人では俺の救出は不可能だ。だからかがりは、ストラトフォーを裏切ってまで、俺の救出に協力してくれたのか。
「比屋定さん、かがりは今どこに……?」
 俺は彼女にそう尋ねたが、彼女は悲しそうに首を横に振るだけだった。
「そう……、か……」
 俺の世界線でも、かがりは死んだ。それを俺はタイムリープで回避をしたが、この世界線での俺はそれをしなかった。この世界では、彼女の死は確定してしまったのだ。
「かがりさんは亡くなる時、私にこう言ったの。橋田さんと、鈴羽さんには私の事は黙っていて欲しい、って。だから、2人がいるラボでは話せなかった……。でも、せめて岡部さんだけには、話しておこうって思ったの……」
「そうだったのか……」
 真帆は悲しい目をしながら、俺に全てを話してくれた。きっと、思い出すのも辛かっただろう。そんな彼女を見て、俺は話さずにはいられなかった。
「比屋定さん。かがりは、俺の世界線では生きている」
「え……?」
 俺の言葉を聞き、彼女は目を丸くしている。
「重症は負ったが、命に別状はなかったんだ。怪我をしてからは、俺たちと一緒に行動して、今ではラボの一員だ。君とも仲が良くて、よく話をしているよ」
「……そう。そうなのね」
 俺の話を聞き、真帆は嬉しそうに笑う。しかし……。
「………………っ」
 次の瞬間、彼女は涙を流し、その場に蹲った。
「先輩っ!」
「比屋定さん、大丈夫か!?」
「…………ごめんなさい」
 彼女は、声を詰まらせながら言葉を出す。
「……救われた気がするの」
 そう口にする彼女の言葉は、どこか安堵したようだった。
「例え……、違う世界線でも、かがりさんが生きていると知って……」
 俺は彼女の話を聞き、静かに頷く。
「私の目の前で、かがりさんは亡くなったの……。私、何もできなかった……。かがりさんのお腹から、血がどんどん流れて……。……病院には着いたのに、同じような人が沢山倒れていて……。やっと医師が来た時には、もう、かがりさんの息はなくて……。すぐに黒いカードを付けられて、救命措置さえ、してもらえなかった……」
 大規模災害や、テロ等で多数の傷病者が発生した際は、トリアージが施される。その中で、黒のトリアージ・タッグが意味するのは、『死亡、または、生命徴候がなく、救命の見込みがないもの』。
 かがりの状態は、医師の目から見て、明らかに助かる見込みのないものだったのだ。
 救命措置を施さなかったと言って、医師を責めることなどできない。彼女の救命に人員や時間を割けば、他の助かる見込みのある人たちを助けられなかったのだ。
 しかし、それでも、目の前で息を引き取るかがりを見る事しかできなかった真帆は、誰かに助けを求めたかったのだろう……。
「比屋定さん。かがりは、きっと救われたと思っているよ」
「……え?」
「かがりは、未来から来て何の身寄りもなかった。鈴羽の計画を阻止しょうと思っても、当時のかがりはまだ10歳の子どもで、その日を生きることすら難しかった。だから、ストラトフォーのような組織に入るしかなかった。かがりが言っていたよ。あの時の私は、誰も頼る人がいなかったって。そんな自分が死ぬときは、1人ぼっちで死ぬしかないって。だから、最後まで看取って、こうして涙を流してくれる比屋定さんがいることは、彼女にとっては救いだったと思う」
「…………そう、なのかな……?」
「ああ、きっとそうだ」
「…………う、……く、……ううぅ……」
 彼女は両手で顔を覆い、声を上げ続ける。そんな彼女を、俺は優しく包み込む。彼女の涙が止まる、その時まで……。

2016.10.29 Sat l シュタインズゲート l コメント (0) トラックバック (0) l top

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