シュタインズゲートゼロの二次創作小説をピクシブ小説に掲載しました。
こちらにも同じものを掲載します。
内容はゼロ本編「交差座標のスターダスト」の続きの話しです。
2人の織姫を追いかけたオカリンがどうなったのか? 気になって夜も眠れないので、自分で書いてみました。
長編ですが、最後までお付き合いして頂ければ幸いです。
「これと、これと……、あと、これもね」
 そう言って、彼女は手荷物をスーツケースへ入れていく。スーツケースはパンパンに膨れており、すでに容量オーバーなのだが彼女はお構いなしに無理やり詰めていく。用意した荷物が全てケースに入ると彼女は満足そうに笑う。
 そんな彼女がいるここは、ヴィクトル・コンドリア大学の職員寮、比屋定真帆の一室である。先程から、彼女は一心不乱に容量オーバーのスーツケースと格闘していた。
 「ふう、こんなものかしね」
 そう言って、真帆は床に広げたスーツケースの中身を確認した。
 スーツケースの中には大量のタイムマシンに関する研究資料、本来の研究である脳科学に関する資料、ノートPCや周辺機器がぎゅうぎゅうに詰められている。その反面、私服や下着などは必要最低限。化粧品に至っては、全く入っていなかった。およそ、年頃の女子の旅行鞄には見えないが、彼女にとってはこれが最も機能的な旅行鞄のようだ。
 そんな真帆の様子を見て、紅莉栖は思わずため息をつく。
「先輩。先輩も年頃なんだから、もう少し気を遣ったほうがいいんじゃないですか?」
「う、うるさいわね。別にいいじゃない、これが一番機能的なんだから」
 そう言って、彼女はモニター画面に映る紅莉栖を睨みつける。
「それに、研究者たる者仕事が一番 。他の事に気を回す余裕があったら、それを仕事に使うべきだわ」
 そんな真帆の態度に、紅莉栖は再びため息をつく。
「はあ、そんなんじゃ岡部に嫌われますよ」
「な、なんでそこで岡部さんが出てくるのよ!」
「だって、今回の来日も岡部に会いに行くためですよね」
「ち、違うわよ! それはあくまで橋田さんや鈴羽さんとタイムマシンの研究をするためで……」
「先輩、いい加減認めたらどうですか。岡部の事、好きなんでしょう?」
「す――!」
 紅莉栖のその言葉を聞き、真帆は思わず言葉が詰まる。
「なな、何言ってるのよ紅莉栖! わわ、私は別に…」
 そう言いつつも、真帆はあの時のことを思い出す。



『紅莉栖は、あなたのことなんて呼んでいたのかしら?』

『“岡部さん”?』

『それとも……』

『“倫太郎”だったのかな……?』

『しっかりしなさい、岡部倫太郎』



『この私が好きになった人は、そんなに弱い男だったわけ?』



 あの日、あの時……。確かにあの瞬間を境に、自分の倫太郎に対する認識は変化した。それが、自分にとって経験したことのない感情だということは理解している。でも、それは決して口に出すことはなかった。
 自分が抱いている感情。それは、恐らく倫太郎が紅莉栖に対して抱いていたものと同じものだったのだろう。それを、亡き友人の分身である『Amadeus』の前で口に出すのは憚られた。
「……岡部さん、か……」
 無意識に、その名が口に出た。自分で発した名に思わず驚いた。無意識に、名前を口に出すほど、彼のことが気になっていたとは……。
「先輩……?」
 そんな真帆の様子に、紅莉栖が心配そうに声をかけてきた。
「ああ、ごめんなさい。何?」
「……先輩、ひょっとして岡部と何かあったんですか?」
「え……?」
「いえ……、その……。先輩、なんだかすごく寂しそうに見えたから……」
 紅莉栖にそう言われ、真帆は初めて気づいた。どうやら感情が表情に出ていたらしい。
「大丈夫、別に岡部さんと何かあったわけじゃないわ」
「そう……、ですか?」
「ええ、本当に何もなか―――」
 そう言いかけて、真帆は思い出す。思い出さなくて良いことを。

 あられもない格好で、岡部の手を握っていたことを。

「あ……、あ……」

 生まれたままの姿を、彼の前で晒してしまったことを。

「ああぁあああーーーー!!」

 吹き出してきた羞恥心を抑えきれず、真帆は大声を張り上げる。
「ああああぁああああーーーーー!!!」
「せ、先輩!? どうしたんですか、先輩!!」
 心配して声をかけてきた紅莉栖をよそに、真帆は恥ずかしさのあまりその場にうずくまる。
「ううぅう~……」
「先輩、一体どうしたんですか!? やっぱり岡部に何かされたんですね!」
 ある意味、岡部に何かされているわけだが彼が悪いわけではない。というか、紅莉栖が変なことを言ってこなければ、余計なことを思い出すことはなかったのだ。
「もう! 私の事はどうでもいいでしょう! それより、あなたこそ本当は岡部さんに会いたいんじゃないの!?」
「へ?」
「へ? じゃない! 岡部さんのテスターが終了してから、あなたずっと寂しそうにしてるじゃない」
「そ、そんな! 別に寂しがってなんか……」
「だったら、なんで私と岡部さんのチャットのログをこっそり見ているのかしら? 私が気が付いてないとでも思ったの」
「そ、それは……! お、岡部が先輩にセクハラ発言をしていないかチェックするためで……」
「ふん、どうだか。それに、私が“岡部さん”って呼んでいるのに、あなたはテスターを始めた頃から“岡部”って呼んでいたじゃない。相当親密じゃないと、呼び捨てなんてしないと思うけど」
「それは! 岡部が私を呼び捨てで呼ぶからです。大体、初対面で“クリスティーナ”なんて、馴れ馴れしく呼ぶやつに、さんづけなんて必要ないです」
「ふーん、そうかしら? でも、テスターをしている時も、あなた達かなり親密そうだったじゃない。本当は岡部さんのことが気になっているんじゃない?」
「岡部相手にそんなことありえません。第一、私はプログラムですよ? 恋愛感情なんて―」
「ない、とは言えないわよ。その為の『Amadeus』システムなんだから」
「……先輩、どうしても私と岡部をくっつけたいんですか? あっ! ひょっとして、先輩妬いてます?」
「え?」
「私としたことが……、テスターと思って、つい岡部と話しすぎました。大丈夫、先輩が心配するようなことは何もないですよ、安心して下さい!」
「ちょ! 私は別に……」
「うんうん、いいじゃないですか! 気になる男の子が他の女子と仲良くするのを影ながら見つめる女の子。先輩、少女漫画のヒロインみたいですよ」
「だ、だから! 私は別に……」
「いいんですよ、先輩。もっと自分に素直になって」
「もー!! いい加減にしなさい、紅莉栖!!」



 そんな風に、私と“紅莉栖”は他愛のないお喋りに花を咲かせる。思えば、彼女とこんな事を話すのは初めてだった。
 紅莉栖は割とこの手の話が好きだった。それは“紅莉栖”も同じであって、岡部さんがテスターになってからは、こんなふうに私をからかいながら、おしゃべりに興じていた。
 からかわれているとは思いながらも、私は彼女との会話を楽しんでいた。
 彼女が、紅莉栖ではないこと。彼女が、プログラムであること。それは、私自身が一番分かっていた。
 それでも、彼女は紅莉栖そのものであり、私のかけがけのない親友だった。
 彼女と、こんなふうに他愛のない事に花を咲かせ、いつまでもおしゃべりをしていたい。
 それが私の、小さな小さな、願い。
 でも、世界は残酷で、そんな私の小さな願いさえ、叶うことはなかった…。
 紅莉栖だけじゃない…。私は“紅莉栖”さえ、永遠に失ってしまったのだ……。





「紅莉栖……」
 うわ言のように呟く真帆の目から、一筋の涙が溢れる。自身の目から涙が溢れた瞬間、彼女は目を覚ました。
「………ん」
 いつの間にか、眠っていたらしい。タイムマシンの研究にのめり込むあまり、また机で寝ていたようだ。
 悪い癖と思いつつ、なかなか直すことができない。何しろ、この研究が死んだ友人を救う手立てになるかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなかった。そのため、彼女は寝る間も惜しみ、今の様に研究所に泊まり込むことも珍しくなかった。
 彼女がいるこの場所は、都内のある場所にある現・未来ガジェット研究所。以前、秋葉原にあった未来ガジェット研究所はすでに危険であるため、現在の研究所に移転したのだ。フェイリスが提供してくれたこの場所には、様々な専門機器も多数あり、本格的なタイムマシンの研究が可能となっている。
 秋葉原のテロ事件からすでに数年。現在世界は戦争への道へ突き進み、世界各国でタイムマシン開発競争が激化している。その中で、未来ガジェット研究所はタイムマシンの開発で先んじるため、日夜ここで研究を続けていた。
 その日々の研究の疲れのため、真帆はこうして眠りこんでいたのだが……。
「……あれ?」
 彼女は気が付く。眠っていた自分の肩に、いつの間にか上着が掛けられていたことに。自分よりもかなり大きいこの上着は……。
「すまない、起こしてしまったか」
「岡部さん」
 もう、とっくに帰っていたのかと思っていた。連日連夜、研究所に泊まり込んでいた自分を心配して残っていてくれたのだろう。
「ありがとう。先に帰っても良かったのに」
「女性を一人でこんな所に残していくわけにはいかなかったからな」
「あら、ようやく一人前の女性と認めてくれたのね。これでもう子ども扱いはできないわね」
「おいおい、一体いつの話をしているんだよ。勘弁してくれ」
 倫太郎は思わず苦笑する。彼女の厳しい指摘に思わず苦笑いする倫太郎だったが、次に口を開いた時、その表情には少し影があった。
「……紅莉栖の事を、思い出していたのか……?」
「……ええ」
 その名が出ると、急に言葉が出なくなる。2人の間に重苦しい空気が流れる。
 そんな気まずい空気を紛らわそうと、倫太郎は真帆に声をかける。
「コーヒーでも、入れようか……?」
「頂くわ」

 コーヒーメーカーからカップに、熱いコーヒーが注がれる。それを受け取ると、倫太郎は真帆にカップを手渡す。
「ありがとう」
 彼女はカップに口をつける。香ばしいコーヒーの香りが、口の中に広がる。
「おいしい」
「良かった、君はコーヒーが好きだと聞いたから。口に合って良かったよ」
「今の時代コーヒーも貴重だから、贅沢は言っていられないわ。でも、本当に上手に淹れてあるわ」
 戦時中である現在、こうした嗜好品すら今は贅沢品となった。彼女は貴重なコーヒーの香りを存分に堪能する。
 コーヒーを飲んで、2人は一息つく。また、しばしの沈黙。しかし、沈黙は長くは続かなかった。
「……紅莉栖はあれでけっこう恋愛、というか、ガールズトークが好きでね。その手の話をすると、すぐに飛びついて来たわ」
「そういえば、『Amadeus』の紅莉栖も、俺のことで君をからかっていたな」
「本当、いくら私が違うって言っても、私と岡部さんをくっつけたくてね。2人でいるときは、いつもそんな話をして私をからかっていたわ」
「はは、あいつらしいな」
 そんな他愛のない話をして、2人はしばし談笑する。やがて、真帆は遠くを見るように呟いた。
「……懐かしいわね」
「……そうだな」
 倫太郎も、“彼女”を思い出したのか遠い目をする。2人は昔を懐かしむように、紅莉栖の思い出に浸る。やがて、真帆が小さく呟いた。
「……私は、紅莉栖の死に目に会えなかった……。『Amadeus』の紅莉栖の時も、さよならさえ言えなかった。結局、私はどちらの“紅莉栖”とも、お別れができなかった。どうしてかしらね……」
「………………」
「私ね、未だに心の整理がついてないの。あれから何年も経つのに……」
「比屋定さん……」
「紅莉栖が死んで、心にぽっかり穴が開いて……。でも、私には『Amadeus』がいた。彼女が私の心に開いた穴を満たしてくれたの。もちろん、彼女は紅莉栖の記憶データを使って作られたAIでしかない。でも、彼女はあまりにも完璧に“紅莉栖”だった。私には、彼女がただの人工知能とは思えなかったの。まるで、本物の紅莉栖と話しているようだった……」
「………………」
「……でも、彼女も……。“紅莉栖”さえ、私の前から消えてしまった……。また、私の心に穴が開いたようで……。ちゃんとお別れができなかったせいかしらね。何だか、未だに自分のPCを覗いたら、またあの子が私の前に現れてくれるんじゃないかって、そんな気さえするの……。ダメね、私。まだ、彼女のことを引きずっている……」
 真帆は思いの丈を打ち明ける。そんな彼女の話を聞いて、倫太郎は苦しそうに声を出す。「……すまない」
 倫太郎の声を聞いて、真帆はハッとする。
「岡部さんのせいじゃないわ。『Amadeus』を消したのはレスキネンなんだから。バックアップデータを消したのも、あの状況じゃ仕方な―――」
「そうじゃない、そうじゃないんだ……」
「……え?」
 倫太郎は苦しそうに、本当に苦しそうに……、小さく呟いた……。
「あいつが……、紅莉栖が死んだのは……、……俺のせいなんだ……」
「…………ッ!」
 倫太郎の言葉を聞き、真帆は息を飲んだ。
「…………岡部さん、それは……」
「……比屋定さん……。いつか言ってたよな……? いつか、その時が来たら、聞かせてもらうことになるって……」
「………………」
「…………聞いてくれるか……?」
 倫太郎のその言葉を聞き、真帆は一瞬躊躇する。しかし、すぐに意を決し、小さく頷く。
「…………分かったわ」
 真帆のその言葉を聞き、少しだけ倫太郎の表情が緩む。
「……ありがとう」
 やがて彼は口を開く。今まで誰にも、ただの一度も、話したことのない、あの日の罪を……。
「…………あの日、……俺は―――」















「……まさかパパ……盗むの?」

「……なんだと?」

「私の論文……、盗むの? そんなことだけはしない人だって、思っていたのに――」

「誰に対して口を聞いておるのだっ!」

「あ、う……」

「お前に私の気持ちが分かるか! なぜおまえはそんなに優秀なのだ! 私はお前が憎い……! 存在そのものが疎ましいのだよ!! 私より優秀な人間などこの世にいてはならんのだ! 分かるか!? 屈辱なのだ! 娘が親より優秀でいい道理などない! だから遠ざけた! お前と親子だと思われるのが耐えられなかった!! お前がいたせいで……お前のせいで……!」

「よせ!」

「……!?」

「ごほっ、げほげほげほっ……」

「な、なんだお前は!?」

「紅莉栖は殺させない……!」

「お前……、さっきの……! お前のせいで……、お前のせいで私の発表会は台無しだ! よくもぬけぬけと、私の前に顔を出せたな……! どいつもこいつも……、私の邪魔ばかりする……! さてはお前、紅莉栖と示し合わせていたな!? そうだ、そうなんだろう! 許さん……許さんぞ……ガキども……!」

「私を、バカにするなぁっ!」

「くっ――」

「やめて、パパ!」

「指図をするなぁ!」

「紅莉栖、逃げろ!」

「パパ……、バカな真似はやめて」

「なにが分かる……、なにが分かる……、なにが……!! お前さえ、お前さえいなければぁ!」

「中鉢ぃっ!!」

「ダメっ!」





 ナイフを通して、手に、感触があった。
 骨の間をかき分けて、肉を抉る感触が。
 それは意外にも硬く。
 けれど脈動している。
 生きている相手に突き立てた刃は、静止しない。
 相手の呼吸に合わせて、わずかに揺れる。

 俺が――

 刺した――

「あ……、ぐっ……!」

 俺が刺したのは――

「なん……で……」

 信じられない思いだった。
 何が起きた?
 俺は中鉢を刺そうとした。
 その背中には、今にも刃が届こうとしていた。
 なのに――
 それなのに、中鉢をかばうように紅莉栖が割って入ってきて……。

「なんで……」

 紅莉栖の身体から力が抜け、俺の肩に寄りかかってくる。

「は、ははは、はははは! バカどもには、ふさわしい末路だ、はははは!」

 狂気の笑い声を上げながら、中鉢はさっき落とした論文を拾い上げ、通路奥にあるエレベーターへと逃げていく。
 それを追うことはできなかった。
 この状況を把握するのに必死で、一歩も動けなかった。
 なんていう……ひどいオチだよ……。
 殺したのは。
 牧瀬紅莉栖を殺したのは――

「ご……めんね……」

 消え入りそうな声で、紅莉栖がささやいてくる。
 ナイフを握る手に、液体状のものがかかる。
 熱い。
 それは血。
 紅莉栖の、紅い血。
 傷口から、どくどくと流れ出してくる。
 実際には温かいと感じる程度で、決して熱いわけじゃない。
 なのに、火傷しそうなほどの熱を、俺の手は感じている。
 ナイフを抜こうとした。
 抜いて、手当をすれば助かるかもしれない。
 だが。
 自分の手が、石膏像にでもなってしまったのではと思えるほどに。
 動かない。
 どれだけ力を込めても。
 腕も。指も。ぴくりとも動かない。
 俺の脳からの命令を、筋肉が受け付けてくれない。

「はぁ……はぁ……、う……う……」

 紅莉栖の呼吸が、だんだん荒くなっていく。
 紅莉栖が、苦しんでいる。
 こんなつもりじゃないんだ。
 こんなつもりじゃなかったんだ。
 どうして俺の手は動いてくれないんだ。
 ナイフを抜いて、楽にさせてやりたいのに。
 自分の身体が、自分のものではないように感じる。
 寄りかかる紅莉栖の身体が、痙攣するように小刻みに震えている。
 その震えが、紅莉栖の痛みを俺に想像させて。
 泣きたくなる。

「どうして……」

 結局俺ができたのは、そうつぶやくことだけ。

「あれでも……、父親……だから」

「私……、ずっと……認められ……たかった……」

「パパに……、いつも認めて……ほしくて……いつも、勉強を……」

「でも……今さら、分かった……」

「パパは……、私なんて……認めたく……なかったんだ……」

「バカみたい……よね……」

「なのに、なんで……私……パパを……かばった……のかな……」

「ごめ……んなさい……、見ず知らずの……あなたを、巻き込んで……」

「うぅ……い、い、たい……」

「ねえ……、わ……たし、死ぬの……かな……」

「……死にたく……ないよ……」

「こんな……終わり……、イヤ……」

 その声が、徐々にか細くなっていく。
 死ぬな。お願いだから、死なないでくれ……。
 俺がどれだけ願っても。

「たす……けて……」

「た……す……」

「………………」

 その身体から、完全に力が抜けて。
 吐息すらも、聞こえなくなって。
 にもかかわらず、傷口から溢れ出る彼女の血はまだ熱く。

 殺した――

 俺が、殺してしまった――

 紅莉栖を殺したの――



 俺だ――



「あ、あ……」



「あああああああああああああああーーーーーーーーーー!!!」


































 ……長い、長い沈黙……。倫太郎も、真帆も、言葉を発することができなかった。
 彼女に全てを打ち明けた彼の体は、まるで吹雪の中にいるようにガタガタと震えていた。
 その額にはびっしりと汗が吹き出し、その両手は、まるでナイフでも握るかのように形作っていた。
 そして、その顔は、後悔と、無念と、悲しみに覆い尽くされ、苦悶の表情に満ちていた。
 倫太郎の話を聞いていた真帆も、硬く目を瞑り、その表情は、彼の苦しみが分かるかのように、悲しく、苦しそうに見えた……。
「俺が……、俺が、殺した……。殺してしまった……。バカみたいだ……。全部、俺のせいだ……」
 倫太郎はそう呟く。自分が犯した罪と、贖罪の念にかられ、懺悔するように。
 そんな彼の手を、真帆はその小さな手で優しく包み込む。
 彼女は倫太郎の、まるで呪われたような手の形を優しくほどいていく。
「……ありがとう岡部さん、話してくれて……。だから、もういいの……」
 彼女は優しく、彼の罪を赦すように話しかける。
「…………けど……、だけど……、俺が殺したんだ! 俺がバカな真似をしなければ、紅莉栖は死なずにすんだかもしれないのに……」
「紅莉栖が死んだのはあなたのせいじゃない。不幸な事故だったのよ」
「違う! 俺が紅莉栖を刺したんだ! 中鉢から取り上げたナイフで、俺が殺してしまった……」
 涙で顔をぐしゃぐしゃに歪め、倫太郎は懺悔し続ける。
「……紅莉栖を、助けたかったんだ……。奴が……、中鉢がナイフの代わりにドライバーを振り回し、紅莉栖を刺そうとしたんだ……。……俺は、紅莉栖を助けようと……、中鉢を刺すしかないと思って……、奴にナイフを向けて……。……なのに、父親を庇おうと……、紅莉栖が割って入って……。今でも夢に見る…。血だまりの中で、紅莉栖が倒れていて…。俺はただ、それを呆然と眺めることしかできないんだ……。紅莉栖が……、痛いって……、死にたくないって……、助けてって……。なのに、俺は、あいつを助けることもできず、只々見ているだけで…、どうすることもできないんだ! 目の前で、紅莉栖が流す血で、血の海ができているのに、俺は怖くて、動くこともできないんだ! 自分で助ける事も、誰かに助けを求めることもできず、紅莉栖の体が冷たくなっていくのを、見ていることしかできない! なのに俺は……、俺は…………」

「そこから紅莉栖を救い出す為に、私達がいるのでしょう!」

 そう言って、真帆は倫太郎の顔を両手で包み、強引に彼の顔を自分へ向ける。そして、倫太郎を正面から見つめ、力強く言う。
「みんな、紅莉栖を助けるために戦っている。橋田さんも、フェイリスさんも、漆原さんも、かがりさんも、私だってそう! みんなあなたのラボメンなのよ! あなたは1人じゃない! だから……、もう1人で、抱え込まないで……」
「…………比屋定さん…………」
 そして、倫太郎はその場に泣き崩れる。
「…………う、……ああ……、ううああああぁあああ…………」
 そんな彼を、真帆は優しく胸に抱く。
 倫太郎は、小さな子どもの様に涙を流し、小さく小さく体を縮め、真帆の胸で泣き続ける。
「……苦しかったのね……。誰にも言えず、自分だけで抱え込んで……」
 彼女は幼子を諭すように、優しく彼に話しかける。
「……大丈夫。紅莉栖を救う方法は、きっとある。私たちは、必ず、シュタインズ・ゲートに辿り着ける」



 そう……。『シュタインズ・ゲート』はきっとある。
 例え、何千、何万、何億回失敗しても、絶対に諦めない。
 妄想なんかじゃない。
 きっと、この世界のどこかに『シュタインズ・ゲート』は存在する。
 私達はきっと、まだ見ぬ未来へ、理想の世界へ、辿り着ける。

 そうよね、紅莉栖。


















宇宙に始まりはあるが、終わりはない。無限。

星にもまた始まりはあるが、自らの力をもって滅びゆく。有限。

英知を持つ者こそ最も愚かであるのは、歴史からも読み取れる。

海に生ける魚は陸の上の世界を知らない。

彼らが英知を持てばそれもまた滅びゆく。

人間が光の速さを超えるのは、魚たちが陸で生活を始めるよりも滑稽。

これは、そんな神からの最後通告に抗った者たちによる――

執念のエピグラフ。





Steins;Gate 0

交差座標のスターダスト β





2016.08.20 Sat l シュタインズゲート l コメント (0) トラックバック (0) l top

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