10話目がようやく完成。
今回かなり短めですが、楽しんで頂けたら幸いです。


 日はとうの昔に沈み、月が静かに輝くこの時間。草木も眠り、夜は一層更けていく。部屋に木霊するのは時計の音だけ。とても静かな夜だった。しかし……。
「…………う~ん」
 眠れない。眠れない。ちっとも眠くない。
 その夜、詩音はなかなか寝付くことができなかった。どうにかして眠ろうと思い布団をかぶる。しかし……。
「あーーー!! どうしても眠れない!!!」
 とうとう彼女は布団をはねのけ飛び起きた。
「ホント全然眠れないですね。やっぱりアレがいけなかったのかな……?」
 それは今から数時間前のこと…………。



『七ま~い、八ま~い、九ま~い、足りな~い』
『はわわわ……。ゆ、幽霊……!!』



 今夜は珍しく蒸し暑かったので、縁寿と二人で番町皿屋敷ごっこをしていたのだ。怪談でもして涼しくなろうと思ったのだが、遊びすぎて目が冴えてしまった。縁寿は気持ち良さそうに眠っているが、詩音はちっとも眠くならない。
「……う~ん、ちっとも眠れませんね。こうなったら…………」
 詩音は再びベッドに横になると、ぶつぶつと呟き始めた。
「オヤシロさまが1匹。オヤシロさまが2匹。オヤシロさまが3匹……」
 眠れなくなった時はこれが一番。雛見沢では羊の代わりに、オヤシロさまを数えるのが常識なのだ!
「オヤシロさまが30匹。オヤシロさまが31匹。オヤシロさまが32匹……」

「オヤシロさまが242匹。オヤシロさまが243匹。オヤシロさまが…………、あーーーーッ!!! こんなの眠れるわけないじゃないですか!!!」
 頭の中がオヤシロさまだらけになり、ようやく気付いた。こんなことをして眠れるわけがない。
「も~、何で縁寿はそんな簡単に眠れるんですかね?」
 縁寿も遊んでいた時はかなりテンションが高かったにも関わらず、今は気持ち良さそうに眠っている。
「ホント気持ち良さそうに眠っていますね。どんな夢を見ているのやら……」
 詩音は眠っている縁寿の顔を覗いてみる。
「…………ダメよお兄ちゃん……。……そんな、私達兄妹なのに…………」
「…………どんな夢見てんですか……。縁寿もクールに見えて、案外ムッツリスケベですね……」
 縁寿の危ない寝言を聞き、詩音は軽く引く。とりあえず今のは見なかったことにしよう。詩音はそう自分に言い聞かせた。
「……さ~て、まだしばらく眠れそうにないし……。ちょっと散歩にでもでかけましょうかね?」



 10分後。寮の3階にあるテラスに詩音の姿はあった。すでに消灯時間を過ぎているこの時間は、部屋からの外出は禁じられている。ここに来るまでには、夜の見回りをしているシスターの監視を潜らなければならない。並みの生徒なら夜間の外出など考えもしないが、詩音にとっては夜間の外出など、程良いスリルを味わえる遊びに過ぎなかった。
「とうちゃ~く。チョロイですね、私にかかれば夜の外出なんてこんなもんです」
 上手くシスター達の監視の掻い潜ったことに、詩音は酔いしれていた。これがあるから夜の散歩は止められない。
「さあ、ここで気持ちの良い夜風を独り占めして―――」
 その時、詩音の足が止まる。暗がりの向こう、テラスにはすでに誰かがいる。
「…………な」
 まさか、ここにも巡回のシスターが? 詩音の背中に冷や汗が出る。しかし、彼女が身を潜める前に、その人影はこちらを振り向いた。
 しまった。思わず詩音はそう思った。しかし…………。
「…………え?」
 詩音は驚きの声を上げる。暗がりの向こうにいた人影。それは、須磨寺雫だった。彼女は詩音を見ると不愉快そうに呟く。
「…………なんでアンタがこんな所にいるのよ」
「……それはこっちの台詞ですよ。生徒会役員さまともあろう方が、夜のお散歩で?」
「…………ふん」
 おそらくそれは図星なのだろう。雫は詩音の台詞には応えない。もっとも、詩音も同じ目的で来たのだからお互いさまだ。詩音もこれ以上はいちいち追及しない。
 雫はしばらくの間、詩音を睨んでいたがやがて背中を向ける。彼女はテラスの柵に体を預け、再び心地良い夜風をうける。天には美しく月が輝き、優しい風が、彼女の長い髪をなびかせる。柔らかな月明かりの下、その姿はとても絵になっていた。不覚にも、詩音はそう感じた。
(…………全く。これで性格さえ良ければ…………)
 詩音はそう呟く。小さくため息をつきながら、彼女は雫の隣に来た。
「…………なんでこっちに来るのよ?」
「私も夜風を浴びに来たんです。嫌なら帰ったらどうですか?」
「冗談じゃないわ。後から来たくせに……」
 両者ともこの場所を譲る気はない。妙な意地の張り合いをする2人は一言も話さず、その場から動こうとはしなかった。しばしの間、沈黙が続く。しかし、しばらくして詩音が口を開いた。
「アンタ、こないだ縁寿からクッキーをもらいましたよね? ちゃんとお礼は言ったんですか?」
「あんなマズイもの渡されて、何に感謝するっていうのよ?」
 雫は皮肉のつもりで詩音に言う。しかし……。
「へえ、ちゃんと食べたんですね」
「―――ッ!!!」
 自ら墓穴を掘った雫はしまったと、表情を出してしまう。一方、してやったりという詩音はニヤニヤしながら彼女を見ている。
「…………何なのよ、アンタは」
 彼女は不愉快そうな顔で詩音を睨みつける。
「アンタには色々と借りがありますからね。返させてもらいました」
「…………ふん」
 雫は詩音を睨むと、再び視線を外し夜の空に目を向ける。再び静寂が支配する。2人はしばらくの間、心地良い夜風に当たっていた……。どれくらいの間、そうしていたのだろう? 十分夜風を浴びた雫は、そろそろ部屋に帰ろうと思い始めていた。その時、再び詩音が彼女に声を掛ける。
「アンタ、これからどうするつもりなんですか?」
「…………何ですって?」
 不意に声を掛けられた雫は詩音の方を振り向く。
「縁寿はアンタのことを心配してますよ。アンタはそれをどう思ってるんですか?」
 詩音は雫を厳しい眼差しで見つめる。そんな彼女の視線を受けながら、雫は吐き捨てるように言う。
「冗談じゃないわ。なんで私がアイツなんかに同情されなきゃならないの? 余計なお世話よ」
「ああそうですね。私も同感です」
 詩音は縁寿の行動を厳しい口調で批判する。
「はっきり言って、縁寿がなんでアンタなんかをここまで気に掛けるのか、私には理解できません。でも縁寿がそう望む以上、私はそれを止めるつもりはありません。だけど…………」
 彼女は一呼吸置いて、雫を睨みつける。
「私は違います。私はアンタなんかを擁護するつもりは欠片ほどもありません。アンタが今度縁寿に手を出したら、その時は殴るぐらいじゃ済まさないですよ」
 詩音は厳しい口調ではっきりと述べる。そんな彼女に対し、雫も言葉を返す。
「それはこっちの台詞よ。アンタの方こそ、今度舐めた真似したらこの学園からいられなくしてやるわ」
「それはありがたいですね。こんな所、こっちから願い下げです」
 張りつめた空気が、夜の闇に漂う。わずかな物音もしない月夜の下、風音だけが微かに響いていた。柔らかな月明かりが2人の顔を照らす。しばらくの間、2人は無言で対峙していた。しかし、やがて雫は詩音に背中を向ける。
「…………帰るわ。これ以上アンタと話すことなんかないもの」
「同感ですね。私もアンタと話すことなんかありません」
「…………ふん」
 雫はそう呟くと、その場を離れ夜の闇へと消えて行った……。彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、詩音はふぅっ、と息を吐く。
 全く。あの女と一緒にいると息が詰まる。縁寿はよくあんなのを助ける気になったものだ。しかし……、どうせ何を言っても無駄だろう。縁寿はあれで頑固な所があるから、今さら考えを変える気はないだろう。とりあえず、これ以上須磨寺が縁寿にちょっかいを出さないよう、釘は刺しておいた。後は向こうがどう出るか注意しておこう。詩音はやれやれとため息をつく。殴って済むならどれだけ楽か。堅気の付き合いも楽ではない。彼女はため息まじりにそう呟く。
 縁寿はきっと、これからも須磨寺を助けていくつもりだろう。正直自分は賛成ではないが、それは彼女が自分で決めた道なのだ。例え相手が誰であろうと、自分と同じような目に合っている人間を放ってはおけない。彼女は彼女なりに、自分で決めた道を進んでいる。では、自分はどうなのか?
「…………さぁて。私は何をどうしましょうかね?」
 詩音は考える。これから先、自分はどうしたいのか? 一体、私は何をしたいのか?
彼女は自問自答する。しばらくの間、詩音はじっと目を閉じていた。しかし、やがて彼女はゆっくりと目を開き、小さく呟いた。
「…………そんなの……、決まっているじゃないですか……」
 そう、決まっている。そんなこと、とっくの昔に決まっていたのだ。
 柔らかな月明かりの下、誰もいないテラスに詩音は一人佇む。そんな彼女を、月だけが見ていた……。



2011.04.06 Wed l うみねこ l コメント (1) トラックバック (0) l top

コメント

夏の夜の描写がわくわく感満点。月がきれで草木は眠っているのに、全然眠れない詩音。この静動の対比もいいですね。 番長皿屋敷ごっこ???すっごくおもしろそう。お皿が一枚じゃなくてオヤシロさまが一匹???匹ですか笑?これはもう忘れられませんね。
2013.02.03 Sun l 乗組員z. URL l 編集

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